二日後。
ユーベルの復興を手伝いながら、エレインの〈守り人〉としての役目を果たすために、エレドリヌへと足を運んでいた。正式に、〈守り人〉としての役目を就くには、二日間、大樹の木の前で祈りを捧げなければならない。それに、死者の魂を鎮める為にも。
あの出来事が終わった瞬間、エレドリヌに光が差し込み、霧は完全に晴れた。そのおかげで、エレドリヌから避難してきた住民らは、無事故郷へと帰還した。貴族だけではない人間も、避難していたのが幸いだ。でなければ、今頃エレドリヌは滅んでいただろう。
(この機に、エレドリヌは良い方向に進んで行ってくれればいいんだが……)
あの貴族らと同じ過ちを犯さなければ良いなと思っていると、大樹の木に祈りを捧げていたエレインが、こちらに歩いてきた。
「お疲れ様。エレイン」
僕は、エレインに自分のローブを肩に掛けた。二日間の間、食事も水分も摂っていない挙句、上着も着ていない状態だったため、身体が冷え切っていた。
だが、エレインは、微笑みながら僕からローブを受け取った。
「ありがとうございます。ところで、シエルちゃんは?」
「あー。シエルは子供たちに気に入られて、遊び相手になっている。半強制的に」
「半強制的なんですね」
「でもまぁ、最初はイヤイヤ言っていたが、案外楽しそうにしていた」
(あの時。一瞬、魔王かと本気で思ったが、勘違いだったみたいだな)
「そうだったんですね! それで、クロイ様は、どうしてここへ?」
「二日間何も食べていないだろう? ほら、ユーベルの人たちから、握り飯や木の実を作ってもらったんだ。そこの日陰で、食べよう」
大樹の木の下にある日陰に座り、エレインに食事を渡した。二日ぶりの食事に目を輝かせたエレインは、子供の様に握り飯に食いついた。
「美味しいです!! 中にモモサケが入ってますよ!!」
「モモサケか。ユーベルの川で釣ったやつだな。春に釣れるから、食料困難にならなくて良かった。夏だと、すぐに調理しないと腐ってしまうからな」
「意外とクロイ様って、物知りなんですね!」
エレインはそう言って、竹の筒に入っている水に口を付けた。
「幼い頃。父さんが、色々教えてくれたからな。謎の病にかかって亡くなったが。勇者の血が目覚める前は、父さんと過ごす日々が多かったせいなのか、釣りや物を修理をすることが得意になったんだ」
「そうだったんですね。なんか、変なこと言ってしまい、申し訳ありません……」
「いいや。慣れているから平気だ。それで、エレインは今後どうするつもりなんだ? 僕たちは明日の早朝には、ユーベルから出て行くつもりなんだが、エレインも付いてこないか?」
僕は、エレインを旅に誘った。シエルと二人きりでも良いが、聖魔法を使える人材は、今後必要になってくる。あの貴族らみたいな輩が、出てくるとなれば尚更。
「ありがとうございます。ですが、私は大樹の木を守る〈守り人〉であり、お母様が残してくれたものを守りながら、生きていきたいんです。エレドリヌも。ユーベルも。全て守りたい。また、あんなことが起きないようにするのも、〈守り人〉としての役目。なので、私はここに残ります」
「そうか」
「申し訳ございません。ですが、クロイ様やシエルちゃんが、困っているときは、必ず助けに行きます」
エレインは大樹の木に、再び祈りを捧げるように、目を瞑ると、彼女の手の平に一枚の黄金の葉が落ちてきた。
「これは……?」
「〈大樹の葉〉です。黄金に光っているのは、葉が生命を宿しているからで、この〈大樹の葉〉に魔力を送ってもらえると、精霊たちがクロイ様たちを助けてくれます。〈大樹の葉〉の生命が尽きるまで、使えますので、大切にしてくださいね」
「感謝する。シエルにも、そう伝えておく」
エレインから、〈大樹の葉〉を一枚受け取った。すると、エレインは急に立ち上がり、左膝を地面についた。
「この、エレイン・フィーナ。クロイ様のお命尽きるまで、どんなことがあろうとも、誠心誠意尽くします」
エレインのこの言葉は……〈嘘〉ではない。今までの人たちとは違う気がする。
───少なくとも、