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05.〈使命と審判〉

 エレインを連れ、僕とシエルはユーベルの地下に足を運んだ。


「フラッシュ」


 僕は、呪文を唱えると、辺り一面暗かった地下には、眩しいくらいの光が差し込んだ。地下に続く道は真っ直ぐで、光を頼りに進んで行くと、地下通路には似合わない、魔法石で出来たガラス張りの扉が、目の前に現れた。


「ここが、貴族たちの溜まり場、か」


 ドアの向こうで、高笑いする声や汚い言葉が飛び交っているのが聞こえる。それに、耳に残るような女性の淫らな声。


(気持ち悪いな……)


 体が。


 心が。


 頭が。


 全てが、拒絶してしまう。


 だが、ここで逃げたら。もし、この場を見逃してしまったのであれば、ユーベルの人々たちや子供らが、今まで通りの暮らしを取り度すことなど、出来やしない。


 ましてや、この状況が酷くなってしまうことも……。


「エレイン」


 僕は、左横にいる彼女の名前を呼んだ。彼女と出会ったこともまた、何かの縁。世界の真実を知るためにも、彼女の助けも必要不可欠。


「クロイ様。私は覚悟できております。ですので、ここは私にお任せください。勿論、無理は致しませんので」


 エレインの黄金の瞳に、迷いは一切見えず、揺るぎない信念と覚悟が感じ取れた。僕は、彼女に任せるとともに、自分だけにしかできないことを、するつもりだ。


「精々、頑張り給え」


 僕の手を握っているシエルは、呆れたようにエレインに言うが、エレインはシエルに対し、頭を撫で、ドアを押し開いた。


「失礼します!!」


 エレインの声と同時に、貴族らは一斉に目線を向けた。


「な、なんだね!? 君たちは!?」


 僕たちが中に入ってきたことに、貴族らは驚き、その場の空気がざわついた。だが、お構いなしにエレインは、話を続けた。


「私はエレインと申します! 単刀直入に申し上げます! このユーベルから自由を奪わないで欲しいのです。現在のユーベルの方々の暮らしをご存じでしょうか?」


「はぁ?」


「食料も底をつき、貴方たちのせいで苦しんでいます。この場にいる女性たちも、ユーベルの住民でしょう。毎日、時も場所関係なく、肉体関係を迫られ、貴族という権力によって、断ることもできずにいます。断れば、命や人権そのものが消え去り、として生きれなくなってしまう。家族に被害が及ぶと判断していると思います。ですが、もう安心してください。私たちが、何とかします!」


 エレインの言葉に、身も心もボロボロな女性たちが、嗚咽を漏らしながら涙を流した。服も来ていない状態で、行為痕が目に見えてわかる。それに、奴隷としての証拠である、首輪とリードが繋がっていた。


(虫唾が走る……)


 僕は、初めてそう思った。


 すると、貴族の一人が、全裸の女性の首に繋がっているリードを、引っ張った。


「俺たちは、そこらの一般階級とは違うんだよッ!! 平民どもは、こーやって、俺たちの奴隷になってればいいんだよ!! どうあがいても、貴族に勝てっこないんだからなッ!!」


「い、いやぁ……。助けて」


「何が助けて。だぁ? いつ、俺がそんなことを教えたんだ!!」


 貴族は、その女性を鞭で叩き始めた。貴族が叩き始めた途端に、四つん這いにされている女性たちも、一斉に鞭で叩かれ始めたのだ。


「……」


 僕の手を繋いでいるシエルが、膨大な魔力を解き放とうとしていた。そんなシエルの手に力を込めて握り、前に出た。


「僕の名は、クロイ・シリル! 勇者・クロイだ!! これ以上他者を、エレインたちを傷つけるのは許しはしない! ここにいるエレドリヌの貴族に問う! エレドリヌにある大樹の木の〈守り人〉を殺害したのは、貴方方だな? ここにきて、やって分かった。〈守り人〉はエレインの母親で、彼女の母を貴方方の奴隷に仕立て上げ、鬱憤晴らしに利用した。だが、幼い彼女が次第に成長していき、彼女も自分たちのモノにしようといていたのを、彼女の母にバレ、母はエレインをエレドリヌから逃がした。餌を逃がした彼女の母を社会的に支配し、肉体的にも支配し、飽きた貴方方はエレインの母を殺した。そうだろう?」


 エレインは黙って僕の言葉に耳を向けた。薄々感づいていたのだろう。まだ何もわからなかったであろう幼かったエレインは、この意味が分かりもしなかっただろう。だが今は違う。この真実を受け止めるには、少し時間がかかりそうだ。


「このねぇーちゃんの、お母様だったのか!? 良い身体をしていたなぁ~。奴隷商人を通じて、金のもんにしてやろうかと最初は思っていたんだが、意外にも相性が良くて、たっぷりと堪能させてもらった記憶がある。そこのエルフのねーちゃんと、血が繋がってんなら、同じようにしてやってもいいが、まだ初物ぽいからな~。少し味見して、売りさばいてやってもいいな~」


 ガラの悪い男が、汚い笑い方をしながら、エレインの身体を舐め回すかのように目線を向けた。



───そこで、僕の怒りの沸点が限界を迎えた。



「〈イグニス〉」


「や、やめろぉぉぉぉ!!」


 古代魔法の一種である〈イグニス〉を、その男に向けて呪文を唱えた。男は一瞬にて、炎に包まれ、悲鳴を上げながら肉体を焼かれていった。この光景を見ていた貴族らは、後退りをし、この場から逃げよう走り出した。


(裏出口があるのか)


 すると、裏出口に逃げ込む貴族の前に、エレインが立ちふさがった。


「私は、故郷であるエレドリヌを元に戻したいだけ。ですが、母が愛していた、エレドリヌを穢した貴方方を、許すことはできません。それに、ユーベルの為にも!! 貴方方の行いのせいで、エレドリヌが〈幻影都市〉となった。母を殺し、母の魂と共に、大樹の木に眠っている死者の魂が、エレドリヌを襲った。これは、死者の魂が怒りに満ちているということ。一生、貴方方の行いを死者の魂たちが、許すことも無いっ!! は、何者かも知りたくもない! もう、これで終わりにしましょう。大樹の木を傷つけ、人々を苦しめた貴方方に〈守り人〉である、が、審判を下します! 死んで償いなさい。───〈ホーリー〉」


 エレインは、聖魔法の一種〈ホーリー〉で、貴族らの存在ごと消滅させた。


この場に残ったのは、奴隷にされていた女性らと、僕とシエルにエレインだけとなった。僕は、その場にあった布で女性らの身体を隠し、地下から抜け出したのであった。

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