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03.〈表と裏〉

 エレドリヌの隣町〈ユーベル〉に辿り着くと、避難していたエレドリヌの住民らではなく、ユーベルに住む住民らが、恐怖に駆られた表情を浮かべながら、僕たちのことを見ていた。




「エレイン……これって」




「はい。ユーベルに住む方々です」




(じゃあ、エレドリヌの貴族たちはどこ、へ……?)




 周りを見渡すが、貴族らしい風格を持つ人物が一人もいない。




 困惑していると、シエルが口を開いた。




「地下だね。確か、ユーベルには使われていない地下があったはず」




「えぇ。魔法石が取れると有名だったユーベルは、貴族たちに目を付けられ、全ての魔法石を掘り起こし、取り上げられました。今となっては、貴族たちの溜まり場となってしまいました」




 エレインは、ユーベルの住民らの顔を窺いながら、話を続けた。




「エレドリヌの貴族たちは、ユーベルの方々をとしか見ていないのです……」




「だから、エレドリヌの近くに奴隷商人が現れるのか」




「───




 突然、横にいたシエルから膨大な魔力が放出されるのを感じた。




(通常の魔力量ではない!? 異常な程の魔力量だ)




 僕と同様にエレインもシエルの魔力量に驚きを隠せずにいると、シエルはコホンと小さく咳をした後、魔力を沈めた。




「シエル?」




「何ともないよ。クロイ」




───クロイって、あのクロイ様!?




 シエルが僕の名前を発した瞬間、ユーベルの住民らは僕に、助けを求めてきた。




「勇者様! どうか、私たちをお救いください!! 食料も貴族たちに奪われ、何とか隠しきっていた食料が底をつきそうなんです!」




「俺たち、もうこんな生活嫌だよ……。ねぇ、お願い勇者様! 俺たちを、ユーベルのみんなを助けて!!」




 小さな男の子が、大粒の涙を流しながら僕に救いを求めた。




 ユーベルとエレドリヌを救う。それが〈勇者〉としての役割でもある。未来のある子どもたちを救いたい。




 だが、エレドリヌの貴族らを。奴隷商人を許すことはできない。それなら僕にだって考えはある。




「シエル」




 僕はシエルの名前を呼んだ。シエルは昔から、人の心の声が聞こえる体質らしいため、僕はシエルに頼らせてもらうことにした。シエルは子供らしくない不敵な笑みを浮かべた。




「しょうがないねー。存分にあたしを利用し給え!」




 シエルはそう言うと、時が止まったかのように、ユーベルの住民が全員とエレインはシエルのことを見つめた。僕はその異様な光景を目にし、わずかながら恐怖を感じ取った。




……)




「魔王だなんて~。乙女に言う言葉じゃないよークロイ」




「それで、どうなんだ?」




 僕は本当に助けを求めているのかを知るため、問いかけた。シエルは僕の方に向き直り、真剣な眼差しで僕を見つめた後、小さく頷いた。




「事実だね。貴族らが支配していることも、助けを求めていることもね。さて、君はどうしたい? 中には〈勇者〉として君に頼んでいる者もいる。少なくとも、エレインは違うけど。〈勇者〉として民を守るか。それとも、〈クロイ・シリル〉として人間を救うか。〈勇者〉という役目を放棄し、この世界を新しく創り上げるのか。エレインだけを救うか。まぁ…どちらにせよ、あたしは君について行くんだけどね!」




(選ぶのは、僕自身っていうことか)






───〈嘘〉を吐く理由なんてない。






───疑うことなんて無い。




 僕は、〈勇者〉として人々を。民を守る。




 例え、新たな世界を創り上げるとしても、犠牲を出す必要性なんかない。エレドリヌもユーベル関係なく。




 僕は〈勇者〉としではなく、〈クロイ・シリル〉として。






 【ここにいる全員を救う】

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