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02.〈ユーベル〉

 〈幻影都市・エレドリヌ〉に向かっている途中、僕とシエルは道端で銀髪のエルフ・エレインが倒れているところを見つけ、彼女から『エレドリヌを救ってほしい』と頼まれ、〈勇者〉ではなく、〈旅人〉として彼女の頼まれごとを受け入れた。




「霧が濃いな……」




「こんなに霧が濃くなることなんて、今までなかったのに」




 僕たちはエレインの案内により、エレドリヌに辿り着くことが出来た。ここに来る途中から、エレドリヌの霧が進行していたが、そこまでではなかったのが幸いだ。




「そういえば、ここの住民たちは、どうやって暮らしているんだい?」




 シエルがエレインにそう尋ねると、隣町があるであろう方向を指さした。




「隣町に全員引っ越してしまいました。霧が全体を覆う前に」




「それは、〈守り人〉が亡くなった後にか?」




「はい。




(可笑しい話だな)




 僕は彼女の話を聞き、ふと疑問に思ったことがあった。




 何故、彼女の母が亡くなったのうちに、エレドリヌの住民全員が、隣町へと引っ越したのだろうか? と。




 おそらく、エレドリヌの住民らがこの霧に、何らかの関係性があるのだろう。この様子だと、エレインは真相を知っているわけでもなさそうだし。




(一度、隣町へと足を運んだほうがよさそうだ)




「エレイン。ここから隣町へ行けるか?」




 僕はエレインに尋ねた。すると、彼女はコクッと小さく頷いた。




「ここから隣町まで、十分程ですが…」




 彼女は少し戸惑った表情を浮かべながらも、ゆっくりと歩き始めた。




 僕たちもエレインの後ろについて歩いた。




(しかし、この霧の濃さ……。〈白い闇ホワイトアウト〉程の濃さだぞ? 何故、霧の中を真っ直ぐ歩けているんだ?)




「その仕組みはね、精霊使いのエルフなら分かるのさ! 大樹の木には、精霊がたくさん住んでいる。精霊使いのエルフなら、彼女らの声が聞こえるから、その声に従って歩けば辿り着くのさ」




「だが、精霊たちがわざと、嘘を吐いたりする時があるんじゃないのか?」




「そんなことはありませんよ。精霊たちは、素直で優しい子たちばかりです。悪戯とか嘘を吐くのは、妖精族の方が多いんですよ」




 エレインは僕たちの会話に口を挟んできた。精霊と妖精の違いがイマイチ分からなかったが、彼女の話を聞き、少しは理解できた。




「しかし、シエルちゃんって物知りなんですね! 私が精霊使いのエルフなんて」




「母親が〈守り人〉なら基本、精霊使いなのは当たり前だからねー」




(そうなのか? 初めて知ったな)




「もうすぐ着きます。人柄はあまり良くないのですが、お気になさらず」




 エレドリヌの住民たちは、貴族ばかりという話を聞いたことがあった。それに奴隷商人を集め、奴隷オークションを行っているという噂も流れている。




「ここが、エレドリヌの隣町〈ユーベル〉です」




 霧が晴れた町の中は、木材だけで作られた建物と、泥だらけの衣服を身に纏った住民らが、身体を震わせ、怯えながらこちらを見ていたのであった。

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