〈幻影都市・エレドリヌ〉に向かっている途中、僕とシエルは道端で銀髪のエルフ・エレインが倒れているところを見つけ、彼女から『エレドリヌを救ってほしい』と頼まれ、〈勇者〉ではなく、〈旅人〉として彼女の頼まれごとを受け入れた。
「霧が濃いな……」
「こんなに霧が濃くなることなんて、今までなかったのに」
僕たちはエレインの案内により、エレドリヌに辿り着くことが出来た。ここに来る途中から、エレドリヌの霧が進行していたが、そこまでではなかったのが幸いだ。
「そういえば、ここの住民たちは、どうやって暮らしているんだい?」
シエルがエレインにそう尋ねると、隣町があるであろう方向を指さした。
「隣町に全員引っ越してしまいました。霧が全体を覆う前に」
「それは、〈守り人〉が亡くなった後にか?」
「はい。
(可笑しい話だな)
僕は彼女の話を聞き、ふと疑問に思ったことがあった。
何故、彼女の母が亡くなった
おそらく、エレドリヌの住民らがこの霧に、何らかの関係性があるのだろう。この様子だと、エレインは真相を知っているわけでもなさそうだし。
(一度、隣町へと足を運んだほうがよさそうだ)
「エレイン。ここから隣町へ行けるか?」
僕はエレインに尋ねた。すると、彼女はコクッと小さく頷いた。
「ここから隣町まで、十分程ですが…」
彼女は少し戸惑った表情を浮かべながらも、ゆっくりと歩き始めた。
僕たちもエレインの後ろについて歩いた。
(しかし、この霧の濃さ……。〈
「その仕組みはね、精霊使いのエルフなら分かるのさ! 大樹の木には、精霊がたくさん住んでいる。精霊使いのエルフなら、彼女らの声が聞こえるから、その声に従って歩けば辿り着くのさ」
「だが、精霊たちがわざと、嘘を吐いたりする時があるんじゃないのか?」
「そんなことはありませんよ。精霊たちは、素直で優しい子たちばかりです。悪戯とか嘘を吐くのは、妖精族の方が多いんですよ」
エレインは僕たちの会話に口を挟んできた。精霊と妖精の違いがイマイチ分からなかったが、彼女の話を聞き、少しは理解できた。
「しかし、シエルちゃんって物知りなんですね! 私が精霊使いのエルフなんて」
「母親が〈守り人〉なら基本、精霊使いなのは当たり前だからねー」
(そうなのか? 初めて知ったな)
「もうすぐ着きます。人柄はあまり良くないのですが、お気になさらず」
エレドリヌの住民たちは、貴族ばかりという話を聞いたことがあった。それに奴隷商人を集め、奴隷オークションを行っているという噂も流れている。
「ここが、エレドリヌの隣町〈ユーベル〉です」
霧が晴れた町の中は、木材だけで作られた建物と、泥だらけの衣服を身に纏った住民らが、身体を震わせ、怯えながらこちらを見ていたのであった。