迷い子と名乗る少女・シエルと出逢い、僕たちは世界の真実を知るために、旅をすることになった。元々は勇者としての役目として、魔王討伐を王様に命じられ、国を出たばかりだった。
勇者の血が覚めたのせいで、皆僕を尊敬などの感情を表にして言葉を発するが、その言葉は「嘘」で創り上げられていることに気づいてしまった。
そして───恋人であった彼女の言葉や愛情も、全て「噓」だということも。
だから僕は、魔王討伐を機に、国から姿を消した。
旅の途中、シエルと出逢い、嘘偽りを感じない彼女から「魔王が世界を脅かす原因なのか」と、自分と同じ考えを持っていることを知り、世界の真実を知るために、シエルと共に行動することに決めた。
「それで、僕たちはこれからどこへ向かうんだ?」
僕の前を歩くシエルに尋ねると、最初から分かっていたかのように僕の質問に答えた。
「幻影都市さ」
「幻影都市……」
「そうさ! 幻影都市と言えば、あそこさ!」
〈幻影都市・エレドリヌ〉
あの場所は、街全体が霧に覆われ、光のない空間で人々が暮らしているという噂。
「霧に覆われている都市……。何故、そうなってしまったのだろう」
「皆、
(魔王がそんなに邪魔なのか)
本当に、何にもかも魔王が悪いのかと疑ってしまう。それに、シエルが言うと、全て事実にしか聞こえない。今のところ、この子の言っていることが「嘘」のない言葉であること。
そして、幼女の体つきではあるが、話し方や雰囲気が大人びている。
自ら「迷い子」と名乗っているが、魔王との接点があるのかもしれない。
そうだとすれば、僕は尚更この子を知らないといけないし、見過ごすことなんて出来ない。
「クロイ? どうしたんだい? ぼーっと、しちゃってさ。あっ、もしかして! あたしのこと、見惚れたのかな~? きゃー、クロイったら大胆~」
「いや、ありえないからな」
(幼女に見惚れるって、男してあってはならないだろ……)
僕の腕にくっついてきたシエルを横目に、小さくため息を吐いた。
「えぇー。クロイのケチー。乙女心分かってないから、彼女にも振られるんだよ」
「一言多い」
幼い頃から僕は、人より口数が少ないが、勇者となってからは、心を閉ざすように自然と口数も減っていった。恋人がいたのは、ある意味、奇跡としか言いようがない。
(だが、結果的に僕だけを愛してはくれなかったけどな)
事実を受け止め、内心落ち込んでいると道端で女性が倒れているのを発見した。
「おい、大丈夫か! 意識があるなら返事をしろ!」
僕は女性の肩を少し揺らすと、女性はゆっくりと目を覚ました。
「おっ、起きた~。君、こんなところで寝ていたら、危ないじゃないかな? エレドリヌに行く道は、奴隷商人らが出没しやすい。寝るんだったら、宿に泊まった方がいいよ~」
(いや、そういう問題か?)
シエルの言うことに心の奥で突っ込んでいると、長く綺麗に整った
「ここは……?」
「エレドリヌに続く道」
「エレドリヌ……。あっ、もしかして。貴方方は
(僕のことを知らないのか?)
本来、僕は勇者だということがバレることが多い。この右腰にある四英雄の剣の一つ〈エクスカリバー〉で皆、僕が勇者だと確信する。
だが、この銀髪の女性は本当に、僕のことを知らないみたいだ。僕は、そのまま彼女の問いに頷いた。
すると彼女は、僕の両手を握り、黄金の瞳を大きく見開き、助けを求めてきた。
「お願いです! エレドリヌを元に戻すのに、お力をお貸しください!!」
「お嬢さん。お名前は?」
「エレインと申します」
銀髪の女性は、白いローブのフードを下ろすと、隠れていたエルフの特徴的な尖った耳が露わになった。肌も色白く、この世に存在しているのかと思えるくらい、とても美しく綺麗な女性だった。彼女に目を奪われていると、彼女は少し困った表情を見せた。
「あの……」
「すまない。それで、エレドリヌを元に戻すとは?」
「ご存じだと思いますが、エレドリヌは五百年前ほどから光を失い、都市が謎の霧に覆われました。私は、エレドリヌにある死者を弔う大樹の木を守る者〈守り人〉。先祖代々から受け継がれています。私の母が亡くなったのと同時に、光を失ってしまい、私は母の代わり〈守り人〉となったのです。大樹の木は枯れ果て、大樹の木を蘇らせるために、色々やってきましたが……」
(無駄だった。か)
大樹の木は見たことはないが、小さい頃に本を読んだことがあった。
彼女の言う通り、大樹の木は死者を弔う役目を果たしている。だが、〈守り人〉が存在しない大樹の木は枯れ果て、
おそらく、彼女の母親が未だに〈守り人〉だったことになっており、エレインのことを新たな〈守り人〉として大樹の木が認めていないのだろう。僕は彼女に憶測を告げた。
すると、エレインは自分が原因だということに気づき、目に涙を浮かべた。
「な、何故私が……。〈守り人〉に認められていないの」
「それは分からないけど、一旦エレドリヌに向かった方がいいかもしれないね?」
シエルはエレドリヌがある方角に指を指した。
目線を向けると、霧が近くまで迫っていた。エレインは霧を見た瞬間、僕とシエルの手を握った。
「どうかお力をお貸しください! このままだとエレドリヌが危険です!他人事だと思いますが、私にとって、エレドリヌは大切な故郷なのです……。お願いします! お礼はなんだってします!」
僕はシエルをチラッと目を向けると、『いいじゃないか』と口パクで言った。僕は彼女のお願い事を、聞くことにしたのであった。