俺は野暮用で五月とお化け屋敷に入っていた。
次々と迫ってくるツギハギ男や、赤い血を流した露出狂、布を被った人やら幽霊を発勁で撃退しつつ、前へ進む。
「アバババババババ……」
五月はお化けが大の苦手らしい。さっきから電動歯ブラシの様に身体が震えていて、その上で俺にくっついてきている。
可愛げがあって推せる~。好きぃぃぃ!
早よ告白して付き合いたいぃぃ!
内心で叫んだが、その言葉達は虚空をこだました。
「お化け屋敷でターゲットを発見。速やかに排除するぞ」
そうこうしてるうちにまた新たな手勢が来た様だ。
手勢と言っても三人というか、先頭に立っていたのはピーマンだった。やけにバカでかいピーマンだった。
脇に立っていたのはエビピラプとホルモンだった。するとホルモンがメガホンを片手に演説を始めだした。
「野菜を殺すなー!」
「「野菜を殺すなー!」」
「……なに?」
ホルモンの掛け声に呼応して、ピーマンとエピピラフが声を出す。
「植物だって生きている!」
「「植物だって生きている!」」
ホルモンがそれ言うんかい!
「木にだって人権はある~!」
「「木にだって人権はある~!」」
えっ……なにこれ?
「植物はおいどんらの味方。動物だけが植物を搾取している! 植物だって生きたいんだ! 栄養は動物性から取れ! 植物を巻き込むなぁ!」
「そうだそうだー!」
「ピーマンを食べろー!」
目の前でデモが始まった。ていうかそれ、ピーマンじゃなくてホルモンが最初に言うんだ。相場は当事者であるピーマンが訴えるもんかと。
◇
「申し遅れたな。バイトが終わって五月親衛隊に戻ってきた。俺はピーマン相撲の使い手。ピーマンだ」
切り替え早。あとエピピラフとホルモンどっかいった。どこいった?
「俺は同人誌売りの一樹だ」
「えっ? なんですか? 自己紹介する流れなのですか? それじゃ、私はBL本を買いに来た五月です?」
◇
「さあ来い小坂! 格の違いを見せつけられてやろう!」
「諦めんな」
「ピーマン相撲不知火型!」
不知火型。腕を左右に大きく開くことが特徴。攻撃的で豪快な型だ。横綱の土俵入りに採用されてるほど有名な形である。
「あ、あの……! いきなりなんなんですかあなたは! 不敬ですよ!」
臨戦体制を取っていたら五月が急に横から割って入ってきた。
「まずピーマンは、私達に何の御用がありますか!?」
「魚肉ソーセージ三本で小坂一樹を暗殺するために来た」
「次にあなたは!」
おいちょっとまて! あっさりとスルーしたけど、俺の命魚肉ソーセージ三本分なんか!?
ていうかツッコミ入れろよ五月。さっきからおかしいところしかないだろ!
ああもう。次は自分の番らしい。よく分からないが、ついさっきまでやっていた事を言おう。
「ああ、お化け屋敷の中で同人誌売っていた」
「そうですね。私はそれを買うために来ました。ほら、ここで争う必要ありませんよね?」
いやあ、ピーマンが俺の命狙ってるんだから争う必要あるだろ何言ってんだ。と言いたかったが、五月の剣幕に気圧されて言い出せなかった。
「あっ、はい。お騒がせしてすみませんでした……」
ピーマンも同じだったようで、ズコズコとお化け屋敷から撤退していった。
ていうか五月が言葉だけで襲撃者を追い払っちゃった。凄すぎるだろ。
◇
「やあピーマン。久しいわね」
「ゲッ、マリオ重国」
「過激派から穏健派に寝返る気はないかしら? 粗挽きソーセージ五本でどうで候?」
「乗った!」
「随分と決断が早いのね」
「俺は魚肉ソーセージ三本でアイツと契約した。そのソーセージはもう貰っている。なら次はお前らの番だ。両方から毟り取るのが常識だろ」
◇ピーマン。過激派から穏健派に寝返る。