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第4話 早めに初デートの連絡を取るべし

◇メッセージ欄



「そういえば、〇〇に行ったことある?」[既読]


         『一、二回だけならありますね』


「〇日に少し時間があるんだけど、今度イベントがあるらしいんだ。だから一緒に行こうよ」[既読]


         『そうですね。是非行きましょう!』



         ◇



 恋愛導き師が言う初デートの誘い方。以前に何気なく聞き出した、行きたい場所や興味のあるものからデート先を選択するべし。


 興味があるものが分からなかったら当たって砕けろと十万円を引き換えに教えてくれた。


「また新しい彼女できたの? お兄ちゃん☆」


 パーカーを着ている妹が俺のスマホを覗きながらそう言った。ていうか、いつのまにか背後を取られていた。忍者かコイツ。


「やあ僕ブロッコリー。助けて」


「いや、まだ初デートの段階だよ。だがいずれそうなるから楽しみにしとくんだなぁ」


「フーン。まっ、お兄ちゃんの事だしどうせまたすぐに別れるっしょ」


「今回はそうはいかねぇ! 必ずあの子を俺のものにするんだ!」


 ベットの上に立ち、俺はそんな宣言を妹の前でした。妹は苦笑いを浮かべていたが、今のうちに浮かべるだけ浮かべとけばいい。


 そう想うと、自身の内側からメラメラと燃えたぎってくるものがあった。闘志だろうか?


「やあ僕ブロッコリー。聞こえてる?」


 懸念点と言えば数日前、めんどくさい奴らに一夜限りじゃない子と接する方法を聞いたが、結局有力な情報を得られなかったこと。


「ひゅーひゅー、はいはい熱いねぇ☆」


 ……思い返せば六花があの場面で乱入してこなければ聞き出すことが出来たかもしれない。今更ながら腹立ってきた。


「そういう六花こそ新しい彼氏できたのか? 数ヶ月前に別れたと報告を受けた以来聞いてなかったけど」


 仕返し代わりに六花の恋愛事情を聞いてみることにした。理由は特にない。


 すると六花は頬を少しだけ赤らめて、俯き加減に視線をそらしながら人差し指同士をツンツンしつつ喋り出した。


「ウチも気になってる人がいるんよね……☆クマバチの卵を食べさせたい人がね☆」


 たまにだが、妹である六花がなんで変な単語言うのか分からないことがある。兄としてまだまだ精進しなければ。


「そっかぁ。六花も彼氏できそうなのかぁ。ちなみに性格はどんなんだ?」


「性格はそうだなぁ……☆真面目な部分と破天荒な部分が半々かな☆!」


「真面目と破天荒が半分ねぇ。それって縦に半分なん? 横に半分なん?」


「ん……? どゆこと☆?」


「ほら、右と左に半分なのか。上と下で半分なのかで印象変わるなって」


(どういう意図の質問? たまにお兄ちゃんが何言ってるか分からないことがあるけど、今がまさにそう☆)


「半分が味噌汁の感じか、ガパオライスの感じかってことだよ」


(だからどういうこと!?)


「んー、強いて言うならごちゃ混ぜに半分かな?」


 ガパオライスと味噌汁をごちゃ混ぜにした性格ねぇ。なるほど!


「ああ、ガパオライスに味噌汁ぶっかけて食べるタイプなんだな。覚えとくよ」


 六花に彼氏が出来たらこの料理を振る舞おう。そう思った。


「僕ブロッコリー。ここから出して」



         ◇



「あとさ、この服普通にダサいから辞めな☆」


 俺は今、根性と刺繍されてるTシャツを着ている。根性、いい響きじゃあないか。部屋着くらいいいだろうに、何がダメなのだろうか?


「大丈夫。これ部屋着だから。それに可愛いだろ」


 腑に落ちなさそうな顔をしながらも六花は頷いた。『当日のコーディネート、ウチが監修しよっか? 大丈夫☆?』とも言ってきたが、丁重に断っておいた。そこは自身のセンスを信じる。



         ◇



プルップルニヒヤシタギュウニュウ


 電話だ。誰だこんな時間にかけてきたやつは。田中だ。出てみると開口一番『サークル仲間として明後日、同人誌の受け子をしてほしいっす!』と言ってきた。


 日時は五月と初デート前日か。ハードスケジュールだが、俺は快諾した。


 創作活動で役に立ててない負目も感じてる中に来たこの役目。与えられた役割を最大限やろうと決意した。



         ◇



「あっー☆!」


「今度はどうしたよ? あと、あんまり耳元でキンキン声出さないでくれ。偏頭痛なんだ」


「パパ、ママ。今日も遅くなるって☆」


 父さんと母さんは共働きでいつも家には居ない。なので今まで2人で家事とか分担しながらやってきた。


 ちなみに料理担当は妹がやっている。俺も料理作れるのに、妹が中々作らせてくれないのだ。何故だろうか?


「助けて! だれかブロッコリーを助けて!」


「お兄ちゃん、このりんご握りつぶして」


 脈絡も無い事を妹に命じられたので申し付けどうりに握りつぶした。潰れたりんごを即座に皿へ回収する妹。とたんにガクガクと震えだす檻の中のブロッコリー。


(お兄ちゃんは武術の心得あるから~☆このりんごみたいになりたくなかったら黙っててねー☆)


(僕ブロッコリー。男が怪力で、女が僕の脳内に直接語りかけてくる。この兄弟怖い)


 なぜだろう。さっきから妹が潰れたりんごをブロッコリーに見せびらかしながら悪い顔をしている。なんか知らないけど妹が楽しそうならいっか。


「明日はデートのための下見に行くから、さっさと夕飯食べて寝るわ」


 さてはて、今日の夕飯は今朝取れたブロッコリーを使った料理だ。まだ喋るし生きがいい。ん? 喋る?


「ブロッコリーはダイエットにいいからね☆」


「別にダイエット必要なくない?」


「乙女心を分かってないなぁお兄ちゃんは☆体型維持には必要なの☆」


「ああ。そうか、僕ブロッコリー。これから人間さんに食われるんだ……」


 ……食いづれぇ。


 なんで当たり前の様にブロッコリーが人語喋ってんだよ。


 命乞いされたら食いたくなくなるじゃん。良心が痛むよ苦しいよ。


 ていうかなんで妹はブロッコリーが喋る件についてツッコミ入れないん。俺がおかしいんか?


 なんなら、ブロッコリーの命乞い無視して食べようと妹が箸を構えてるし。俺がおかしいんか?



         ◇



 こんな時はセントラル•脳内•会議だ。


 俺は脳内にいる複数の自分に『ブロッコリーって喋ると思うか』と問いかけた。


 するとあちこちから『ブロッコリーが喋るわけないよー』『トマトは喋るけどブロッコリーが喋るなんてありえない』という声が聞こえてくる。


 そのことを含めて今度は『じゃあ結論、ブロッコリーは喋らない。あの声は俺の幻聴だったのか?』という議題を投げかけてみた。


『真面目に考えてブロッコリーが喋るわけがない』『そうだよ!』『きっと幻聴だったんだよ』という声が出てくる中、一つだけ違う意見が聞こえてきた。


「異議あり! ブロッコリーは喋るぞ! 肉達だって喋ってたし、この世界はケモ耳や背中に羽が生えてる人間だって……」


『ブロッコリーは普通喋るわけないじゃん』『君の感想ですよね?』『この世界がおかしくないか?』


 考えることを頑張った結果、俺は考えるのをやめて、ただ無心にブロッコリーを食べることにした。


◇その夜、とある食卓から野菜の叫び声が町中に響き渡ったという。

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