「む、ら……まさ。ほ、ほら、やっぱり村正って……」
「よく見ろ。それは村正ではない。藤正だ」
「似ているのは当然だ。それを打ったのは村正と同じく伊勢の刀匠、千子藤正。千子村正の門下の一人で、その中でも一番村正に作風が似ている」
似ているのは作風だけでなく、銘字の「藤正」も村正に似ており、実子ではないかと言われる程に色んな意味で似ている刀匠だ。
「が、似ていたとしても、千子村正ではない。そもそも村正は応永の刀匠、藤正は永正。時代が違う」
贋作、というよりは完全に勘違い。いや、思い込みだ。
今回の妖刀騒動は、「村正」を妖刀だと思い込み、藤正を村正だと思い込んだ――思い込みが引き金となって、男の狂気を引きずり出したに過ぎない。
「理解したなら、今すぐ刀を渡せ。それ以上血で汚れた手で触れられると、刀身が痛む」
「……違う!」
「おっと……」
まだ諦めていなかったようで、中村が横一文字に刀身を振るった。素人の
「俺は、村正に心を乗っ取られたんだ! だから人を斬った! だって、この村正は妖刀で! 妖刀は呪われていて! だから、この妖刀に人の血を吸わせれば、妖刀にも力が宿って! そうしたら、その持ち主にも……運命を変える力が! 認めねえ、認めねえ、認めねえ! これは妖刀だ! これは、これは、これは……!」
「今、お前の脳裏によぎったものこそが、真実だ。人間が生んだものといえ、人間と違って刀は嘘をつかん。ありのままの真実を、我らに突きつける。それが、真実だ。それが、本当の事なんだ」
「くそがああああああっ!」
まだ続けるつもりか、彼が自分と一体化した藤正を高く振り上げた。そして、目的もなく周囲の木々を斬った。
一合、二合、三合 ̄ ̄。続けざまに、刀の音が鳴った。
「よせ、中村。もう……」
「黙れ、黙れ、黙れ! そんな真実、俺は認めねえ!」
なおも食い下がらず、中村は乱暴に刀を振り回す。本当に妖刀に取り憑かれたように暴れまわる中村は標的を見失ってもなお大地を、木々を、周囲を斬る。
「御主人、後は私が……」
「星乃……」
星乃は二丁拳銃の内、小型の方の銃口を取り出す。まだ傷が痛むのか、近くの木に身体を支えられながら星乃は傷みで震える銃身を無理やり上げ――
「御主人の敵は……私が、撃つ!」
ぱん、と乾いた音と共に、刀を握る中村の手に一発当たった。傷みで刀から手が離れたところを、さらに星乃は続け様に二発、三発、と両足に撃ち込んだ。
ぱたり、と中村の身体が地面に倒れた。手と両足が赤く腫れ上がっているが命に関わるような怪我ではない。
「ご安心を。実弾級に痛い、ただの玩弾ですから」
「とりあえず、これで依頼完了って感じですかね」
と、星乃は中村の手から藤正を乱暴に抜き取った。当然両手からの出血がひどく、藤正を直で触れた箇所は肉が削がれていた。よくこの状況で気絶しなかったものだ。
「はい、御主人」
「ああ」
星乃から藤正の刀身を受け取ると、素早く処理を始める。
「まったく、折角の名刀が酷いものだ」
血と油でべっとりと濡れた刀身は、一部は酸化が始まっており、早く処理しないと刀身が傷んでしまう。そもそも錆が刀身にこびりついてしまっては、もう拭いようない。それこそ錆そのものを刀身と共に削らなくてはいけなくなる。そして、一部を削ったら、他も合わせなくてはいけなくなる。そうなったら〝元〟の刀剣ではなくなる。
――ひとまず応急手当だけでも……。
ひとまず