「あーあ、御主人ったら単純なんですから」
案の定、星乃の文句が店内に静かに響いた。
あの後、スバルに勝負をふっかけられた
スバルが先代の件から
――『ふっ、話は決まったな。先に辻斬りの妖刀を鑑定した方が勝ちだ』
――『お前の連勝もここまでだ。今度こそ僕はお前に勝つ。勝って、鎬木先生に僕の事を認めて頂くんだ。せいぜい僅かな栄光をかみしめる事だ』
――『僕は、負けない。お前みたいな……
それだけ言い残すと、彼は早速調査へと向かった。忙しない男だ。
――しかし、最後の一言は……正直痛いな。
確かに、
「御主人!」
突然星乃が身を乗り出してきた。
「何呆けているんですか! 私達も行きましょう! ほらほらほら」
星乃は
その様子を見ていたイロハが、突然吹き出すように笑った。
「ふふっ! 本当に君達って見ていて飽きないわ。あの時は、まさか貴女が天さんの助手になっちゃうとは思わなかったけど」
「べ、別にイロハさんには関係ないでしょ! 私はあの時から御主人についていくって、決めたんです。わ、悪い?」
「悪くありませんよ、ふふふふっ」
完全に遊ばれている。
過去の事に触れられたくはないのか、星乃はあからさまな態度でイロハを威嚇すると、
「イロハ、すまないが店を頼む」
スバルが戻ってきた時(主に道に迷って)に留守だとまた面倒な事になりかねないから。
「はぁい。天さんのお願いなら、何だって聞いちゃう……っと、イロハ姉さんとした事が忘れる所だったわ」
ぽん、とイロハは豊満な胸の前で手を叩くと、何故か胸の谷間に腕を突っ込んで文らしき物を取り出した。
あまりの豪快さに、普段膝下を露わにしている星乃も驚き、固まった。
「実は、イロハ姉さん……もう一つ依頼があったのよ」
「そっちが本命か?」
「ええ、スバル君は天さんが絡むと面白いから、つい……。それに、あの子のお姉さんに一人で行けるか心配だから、って別で依頼代貰っちゃったから、まあ物のついでにね」
同じ依頼で二人から依頼料取ったのか。星乃もやらん手法を平気でやってのけるとは、やはりこの女苦手だ。
言葉通り、イロハの本命はこちらのようであり、彼女は
「詳細はそこに書いてあるわ」
「詳細って、何です?」
ひょこり、と星乃が
「それは、イロハからは言えないわ。何故なら、イロハはただの情報屋。欲しい、って言った人に高くて早くて安心の情報を提供するのがお仕事。ここからは、貴方達鑑定屋の出番……でしょ? 天さん」
「ああ。ここからは
ひらり、と「浪漫」の文字が刻まれた羽織を翻し、
「あ、あの……」
ずっと店の前で待機していたのか、高そうな藍色の着物を着た少女が立っていた。編み込んだ栗色の髪を桜の簪でまとめ、金色に光る帯留めが日差しに反射して高貴な光を放った。
「あら、来ちゃったの。待っていて、って言ったのに」
「ごめんなさい、情報屋さん! でも、一人で待っていると不安で……」
「あら、いいのよ。行動力にある子は、イロハ姉さんだーい好き」
どこか艶ぽい笑みを浮かべ、イロハは店先の少女に歩み寄る。そして、一瞬びくり、と肩を撥ねた少女の両肩を掴むと、ぐいっと
「それじゃあ、天さん。紹介するわ。今回の本当の意味での依頼人にして……妖刀の持ち主さんだよ」