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妖刀・村正1-3

 少しだけ幼さの残った、中音の声。

 新たに入ってきたのは、背丈の低い少年。輝くブロンドの髪は日差しに反射して輝き、深い碧色の瞳は宝石のようで高貴さが漂う。特注品と思われる白い燕尾服テールコート姿に紳士帽子シルクハット洋杖ステッキ、と一見西洋貴族のような格好をしているが、外見が幼く見えるせいで、正直子供が背伸びしているようにしか見えない。

「あれあれ? スバル君じゃないですかー。お久しぶりですね」

「スバルさん、だ! 僕は成人した立派な大人だと何度言えば分かる!」

 茶化すように言った星乃を彼――スバル・オルサマッジョーレは、睨み付けるが、やはり少年にしか見えないせいか、怖くない。むしろ愛らしさすらある。

「御主人。スバル君、まだ御主人の事根に持っているんですかね。男の嫉妬は怖いですね」

「うるさいぞ、助手!」

 顔を真っ赤にして星乃を怒鳴りつけた後、彼は我に返った。そして、一度咳払いをした後、ずれ落ちてきた紳士帽子シルクハットを直す。

「言っておくが、僕はまだお前を認めてはいないからな!」

「お前も相変わらずだな」

「誰が成長ないだ! これでも声変わりしたんだからな!」

 誰もそこまでは言っていない。

「まったく。何だって鎬木先生は、こんな奴に店を……」

「もう、先代がそう決めたんだから、御主人に文句言ってもしょうがないじゃないですか。先代に弟子入り断られているからって、御主人に当たらないで下さい。毎度毎度勝負を挑まれる御主人の身にもなって下さいよ」

「うぐ……っ」

 星乃が痛い所をついたせいで、スバルは黙った。今回ばかりは褒めてやろう。

 彼――スバルは、見た目は十代後半にしか見えないが、これでも今年で二十五の成人だ。子供ぽい見た目に拍車を掛けるような少女に近い声色のせいで大抵子供扱いを受ける。子供のような言動が多いせいもあるだろうが。

 元は伊太利亜イタリアの中級貴族だったらしいが、そこで出会った我が先代の鑑定屋としての腕に惚れてわざわざ日本にきて先代に弟子入りを志願したが、あっさり断られた。一応これでも認定鑑定士の資格も有しているが、先代に弟子入りを断られた事を未だに気にしており、こうやって二代目のわなみに「鑑定勝負だ」と突っかかってくる。正直かなり迷惑だ。

 だが、鑑定士としての腕は良く――わなみと同じ東京都に認定されている鑑定士の、もう一人の方だ。鑑定士としては珍しく、積極的に公開鑑定のような事をやっており、巷では「偶像アイドル鑑定士」扱いを受けているが、本人の目的は目立つためではない。

 単純に、名を売りまくって先代に認めてもらう、という理由からなのだろうが――

「ふんっ! この間は『週間御宝』の表紙を飾ったぞ? どうだ、凄いだろ! これで鎬木先生も僕の事を……」

「スバル君、先代海外ですって。何度言えば分かるんですか、もう」

 何か、色々と空回りしている。見ていて飽きないが。

「まあまあ、スバルちゃん。わざわざ首都から出向いたんですから、用件を済ませたらどうですか?」

 イロハに言われ、彼はハッと我に返る。

「数ヶ月前から、東京都を騒がせている『近代の辻斬り』の話を知っているか?」

「ああ、例のアレか……」

 最近東京都を中心に、連続通り魔が出没している。無差別らしく、出会った人間はめった刺しで生還者は今の所いない。その傷口から日本刀による犯行だという事だけが分かっている。

「僕の事務所付近にも出没した。辻斬りは移動しているらしく……」

「それで、最新の事件現場である金埼まで出向いたって事か。汽車、乗れたか?」

「心配ない。ちゃんと姉さんが駅まで送って……じゃない! それで辻斬りが金埼にいる所まで分かったのだが……」

「よくここまで一人で来られたな」

「抜かりない。ちゃんとこの通り情報屋を高額で雇って……っていい加減に話を進めさせんか!」

 そのために腕利きの情報屋を雇うとは、やはりこいつ阿呆だ。

 そんな事を考えながらイロハを見ると、彼はわなみと目が合うと相反する二色の目を細め、妖艶な笑みを浮かべた。

「イロハ、またお前の悪い癖か」

「流石天さん。分かってるー。そうよ、全てはイロハの知的好奇心のため。『妖刀伝説』なんて面白い話、乗っからないわけにはいかないでしょ」

「妖刀伝説?」

 星乃が首を傾げると、イロハは壁に寄りかかりながら説明を始めた。

「例の辻斬り。イロハ姉さんの最新情報だと、どうやら刀が関係しているようなのよ」


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