「これは、これは鑑定士殿!」
見ただけで高級な素材を使っている事の分かる洋風衣装を身に纏った、小柄な中年男。彼がここの主催者――葛切か。
葛切は屈強な肉体を持った黒服の男を左右に従えながら、入り口に立つ
「いかにも。東京担当の認定鑑定士が一人、鎬木天虚だ」
まさか
「こいつが、鑑定士だと?」
羽織にびびらなかったのが一人いた。先程思いっきり土埃が目に入ってのたうち回った男だ。彼は、
「かの有名な鑑定士様が、何故そんな下級の娘を連れて歩いているんですか? 良い趣味、とは言えませんねー」
あからさまな挑発に、勝ち気系女子二人は喰ってかかりそうになるが、それを片手で制する。
ちらり、と周囲を伺うと招待客と思わしき令嬢や、葛切を中心とした華族やその従者達は、歓迎しているとは程遠い視線で、
「まったくもって美しくないな」
言い放つと共に、
「そこに控える小娘は、この認定鑑定士・鎬木天虚の助手だ。そして、その隣の娘は、今回の
そこで、
「お前こそ、己が立場を弁えよ……!」
「……っ」
男は、親の仇でも見るような目で
「申し訳ございません、鑑定士殿」
頭すら下げなかったが、柔和な笑みで葛切が言った。
一応主人の謝罪という事で今回は許してやろう。
「ふむ。いや、こちらこそ不躾だったな」
ひとまず話はまとまり、星乃と五鈴に対する嘲笑の視線は消えた。というより、誰も
「さて、本題に入るぞ。<太刀・雷切>の鑑定依頼との事だったが……少し興味深い話を聞いてな。ここの小娘、五鈴の家に伝わる家宝の太刀もまた<太刀・雷切>との事だ」
「それは……また身の程知らずにも程がありますな」
「んな!?」
葛切の言葉に星乃が声を上げた。
「よもやそんな薄汚い娘の言葉を信じるのですか? 何も持たぬ平民風情が、『浪漫財』を所持? 妄想もそこまでいきますと、哀れですね」
予想通りの反応だな。しかし、いつまで笑っていられるか。
「私が所有している<太刀・雷切>は我が葛切家が総力を上げて探し出した大変貴重な古刀です。当然、鑑定士殿もどちらを信じるかなど……」
「どちらを信じるかだと? そんなの……お刀様に決まっているだろ」
「貴様……!」
控えの男が銃口をこちらに向けながら叫んだ。
「待て、逸るな。
「ほう? 鑑定士殿は、何を仰りたいのですかな」
分かっているくせに聞くな、と心の中で毒を吐きながら
「二振りの太刀を同時に鑑定する。それで白黒つけてやろう」
「何を偉そうに……!」
「偉そう? 何度も言わずな。
見せつけるように羽織を翻すと、華族達が息を呑んだ。何故か若い娘達からは黄色い悲鳴が飛び交ったが。
挑発的な言葉に意外にものってきた男は、この場で引き金を引きそうな勢いだった。それに勘づいた葛切は「下がれ」と一言で男を諫める。
「確かに鑑定士殿の言う通り、ちょうど良いかもしれん。また変ないちゃもんをつけられたら敵わん。そこの小娘の太刀も一緒に鑑定してもらおうじゃないか。どっちが本物か、嘘つきがどっちか、白黒つけようじゃないか!」
「交渉成立、だな。では、鑑定の時間といこうでないか」