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太刀・雷切1-1


 所変わって、金崎町二丁目の駅前広場。

 一番人が賑わう場所であり、駅周辺では定期的に催しを行っている。ちょうど先週は旅芸人が大道芸を行っていた。

 駅周辺には商店が幾つもあり、駅前広場で何か行えば店側にも客が流れて利益となるせいか、商店街一同でよく宣伝を行っている。

 が、今週は違うようだ。

 賑わっている筈の駅前広場は人が行き交う事はあっても足を止める者は少ない。

 ――催し物がなければ、噴水と休憩所がある程度の大きな公園だからな。

 駅前のため、駅を利用している会社員や大学生、または逢引き目的の若者が休憩で使っているか、馬車屋が客待ちをしているだけだ。

「いつもは賑わっているのに、こうやって見るとただの逢引き場所みたいですね」

「小煩くなくて丁度良いのだろう」

「でも、いつもは催しやっていますよね? 何で今週はやってないんでしょう」

「やっていない、ではなく、やれない、が正しいな」

「え?」

 首を傾げる星乃ほしのに、わなみは駅前の一点を指差す。

 駅前広場近くにある、二階建ての小劇場。元は町の物であり、駅前広場はこの劇場の付属品のようであり、よく二つの場所を使って演芸などを披露している。広場を使って芸をすれば、自然と劇場にも足を運ぶ、というわけだ。

 しかし、その一角は西洋の衣類を身に纏った紳士淑女に陣取られてしまっている。

 劇場の垂幕は取られ、代わりに入り口に『古刀展』と記載された看板がある。

「何か、御主人が好きそうな展示会ですね」

「まあな」

「おやおや。その割に不機嫌そうですね?」

「あれは華族が趣味で開いている展示会だ……死ね。たしか一週間程を予定しているらしいが、利益のためかその期間は劇場と広場を買い取り、他の催しを中止にしたらしい……ざけんな」

「それで不機嫌そうなんですか?」

「それだけではない。華族や招待客以外は出入りを禁じているのだ。物を愛すのは個人の自由だ。それを線引きするなどあり得ん。そもそも最初から人を選ぶくらいなら展示会など……死ねばいいのに」

 わなみがわなわなと震えていると、星乃が小さくわなみの裾を引っ張った。

「御主人、声がダダ漏れですよ。少しは自重して下さい」

 お前も時と場所を弁えずに「金、金」煩いがな。

「それより、依頼人は何処です?」

「あれだ」

「あれって、まさか展示会?」

「そうだ。『古刀展』の主催者、葛切収三くずきりしゅうぞうが今回の依頼人。そこで、今回の展示の目玉となる<太刀・雷切らいきり>を公開鑑定してほしい、というのが依頼だ」

「へぇ。御主人、そういう見世物みたいなの嫌いなのに、珍しい」

「嫌いだ」

 ぼそり、と言った言葉が思いのほか脳内に響いた。

「見世物なんて……」


 真っ暗な世界と、異様なくらい眩しい照明。見下した目と、蔑む笑い声。それから――


「御主人?」

 星乃の声が、暗闇に覆われたわなみの意識を掬った。

「どうしました?」

「い、いや……」

「よく分かりませんが、御主人がやるって決めたなら私はついていくだけです。ほら、行きましょう」

「ああ」

 星乃に手を掴まれ、そのまま劇場前まで移動する。握った手から微かに伝わる温もりが、わなみが今何処に立っているかを教えてくれた――そんな気がした。


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