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認定鑑定士1-2

 『認定鑑定士』は、国家資格の一つであり、鑑定を行うための基礎的な知識と技術を修得している事を『国際鑑定協会』から認定され、公的に鑑定を行う事を国から許可されている者を指す。

 試験は四年に一度あり、現鑑定士にとっては残留試験であり、鑑定士は全員参加。不参加でも資格剥奪とされる、大変厳しい世界だ。

 人間を裁く存在があるように、「物」にも真偽を査定する存在がある。それが、『認定鑑定士』である。特定の分野の知識を活かし、歴史的美術品などを中心として特定の品物を「何者か」なのかを鑑定する。

どの時代の誰によって作られ、どんな名前を持って生まれ、そして作り手の想いを読み解く。それが鑑定士の仕事である。

 今現在『浪漫財』の影響で、華族を中心に旧時代の品を欲しがる連中が多い。

 特に幕末以前に作られた物は、旧時代の遺産として重宝されている。絵画にしろ壺にしろ刀剣にしろ、色んな人に愛され求められる。反面、それを利用しようと贋作も多く出回っている。


 人は、〝本物〟を愛している。紛い物を悪として、本物だけを愛している。


 そのため、鑑定士の元へ自分が持っている物が本物かどうか鑑定を依頼に来る人間があとは立たないのだが ̄ ̄、


「勿体ない事を」

 依頼人が放置した短刀を天にかざしながら、わなみは呟いた。

「こんな代物そうそうお目にかかれんのだが……罰あたりめ」


「本当に、御主人は意地悪ですね」


 ふいに聞き慣れた声が聞こえた。

「そう思うなら、教えてあげれば良かったじゃなかったですかぁ」

 店の奥から声が聞こえて振り返ると、案の定そこには小柄な少女が立っていた。

 赤褐色の髪を右の耳の上で空色の布製髪結紐シュシュで一つにまとめた、鳶色の瞳の少女。

 彼女の名前は、星乃ほしの

 藍色を基調とした着物の上から臙脂色の羽織を被るように着ている。国内の西洋化に伴い、服装も個人で異なる。特に先程の娘のように若い娘の中では西洋の衣類を身に付ける者が多い。特に華族に多く、西洋の服装そのものが高貴人のたしなみになりつつある。中にはまだ西洋の衣類に抵抗がある者や和服を好んで着ている者、或いは金銭的な理由で着物を使っている者もいるが、彼女はそのどちらでもない。

 着物は膝丈でばっさり切られており、袖口は黒い洋風装飾フリルがついており、和風らしさが欠片もない。西洋でゴシックロリータと呼ばれる服装であり、和と洋の両方を取り入れている点は新時代を連想させるが、そこまで考えて着ているわけではない。あくまで動きやすさを重視し、膝丈が短いのも蹴りやすいから、という物騒な理由からである。

 独自にアレンジされた衣服なのだが ̄―若い娘がそんなに足を出してみっともないと思わないのだろうか。

 恥じらいというものが一切ないのか、特に気にしないどころか人前で平気で足を広げ、正直目のやり場に困る時がある。

 ――まったく、勿体ない娘だ。

 十五の少女のものにしては凹凸のはっきりした身体つきをしており、年齢よりも少し上に見える。逆に顔は幼さが残り、形の良い眉や大きな瞳は幼女のような無邪気さと人形のような完璧な美を持っているのだが。

 前からでは分かりにくいが羽織の後ろには誠ではなく、「一攫千金」の文字があり、左の前髪を留める髪留めは花や星などではなく、古銭の形を模しており、持ち主の性根を表している。|我《わなみが用意した藍色の羽織に「浪漫」の文字が刺繍され最高に伊達な制服を無視するとはいい度胸である。

「はぁ……」

「ちょっと、御主人! 何を人の目を見て溜め息を吐いているんですか? 迷惑料を請求しますよ」

 そう、これだ。

 星乃は何かあればすぐに金を要求してくる、最悪な守銭奴である。今は落ち着いてきた方だが、出会った当初などは目が合っただけで「見物料、三千円です」と請求してきた。最悪だ。

「本当に御主人はしょうがないんだから。そんな高価な代物なら、教えてあげれば良かったものを」

「ほう。お前もようやく商品の目利きが出来るようになったか」

 つい最近までは新作と贋作どころか、プラスチック製の玩具の茶器と本物の区別も出来なかったせいか、

 が、その直後――星乃はわなみを見て鼻で笑った。

「目利き? そんなの、この星乃ちゃんが出来るわけないじゃないですかぁ。御主人みたく人間よりも〝物〟を愛しているなんてほざく変態と一緒にしないで下さい」

「誰が変態だ。わなみはただ……純粋に浪漫ちゃんを愛しているだけだ」

 わなみは、美術品が好きだ。骨董品が好きだ。武芸の品々を最高に愛している。今では旧時代の物を主に『浪漫財』として扱われているが、物の価値は何も費やした時間だけではない。

「そうだ。物の価値は、そこに存在しているだけで良い。この世に生まれ落ちただけで愛される価値あり、愛すべき価値あり。価値ある物が『浪漫財』なら、わなみわなみの視界に入った全ての物を“浪漫ちゃん”と称し、永遠に愛する事を誓おう……っと、愛するで思い出した。わなみの可愛い浪漫ちゃん、新しい仲間が出来たよ」

「御主人、やはり変態です。ほんと、これさえなければ伊達男なんだけどな。神様に感謝しなよ」

 今まさに抜き身の短刀に頬ずりをしようとしたところ、彼女の蔑んだ声でハッと我に返る。

「まあ、短刀においては無銘こそ名刀と言葉もあるからな。無銘だからといって侮れないのが短刀の凄い所だ。石田三成の日向正宗然り、鳥羽の九鬼家から徳川家へ渡った九鬼正宗然りだ」

 無理やり話を戻すと、一応勘定に関わるせいか意外にも食いついてきた。

「ちなみに、鑑定すると幾らなんですか?」

「二十万だな。鍛えられたのは明治だとしても、刃こぼれ一つなく保管するのは骨が折れる。あの娘っ子はともかく、彼女の前の主は刀の名前は知らずともその価値は知っていたようだな。その証拠に、刀の歴史に反して刀身の傷み具合はここ最近のものだ。娘っ子の手に渡ってから四ヶ月といったところか。ろくに手入れもせんで、主人失格だ」

「相変わらずの無能ぷりですね。どうせ騙し取るならご丁寧に鑑定するより先に、その倍の価格を請求して……」

「却下だ」

 念のため訂正しておくが、わなみは今まで客から金も物も騙し取った事などはない。それこそ、鑑定士は国家資格であり、真贋の査定で不備があれば即協会に通報されて資格停止、最悪免許剥奪という場合だってある。

 今現在、世界的に絵画にしろ陶器にしろ歴史的価値のある代物が人々に興味を持たれている。国によっては国の歴史を教える時に当時の陶器や武具を使う所もあるらしい。

 ――戦国の時代でも、国一つの価値のある茶器を交渉などに使っていたからな。

 特に繊細な日本人が作る物は海外でも高く評価を受けており、それは直接国の経済に影響を与える。国家資格を生む程の影響力だ。当然その制度もしっかりしており、一度でも査定を誤れば鑑定界ではやってはいけなくなる。

「しっかし、意外ですね。先程のお客さん、よく御主人の店見つけられましたね。ここ立地条件最悪なのに」

「まあな」

 星乃の言う通り、確かにこの場所は分かりづらい。もし本気で商売のために店を開いているとしたら、とんだ無能だろうが――わなみは儲かりたくて鑑定屋をやっているわけではない。

「御主人見ていると、本当に不思議ですよ。認定鑑定士といえば、厳選な審査で決まる国家資格。任命されるのは都市に一人のみなのに……」

「東京、大阪、北海道だけは二人だがな」

 星乃の言いたい事は分かる。

 『芸術戦国期』と呼ばれるこの時代。旧時代の遺品の影響もあり、『浪漫財』の存在は大きい。華族の間では地位安定のための道具として、他国でもこの国の『浪漫財』は高い評価を受け、政にも使われる。

 そのせいか、『浪漫財』を査定する認定鑑定士の審査は、真贋の審査以上に厳しい。

 ――わなみも、あそこで先代に出会わなければ、踏み込む事すらしなかった。

 認定鑑定士になるための試験に加え、残留試験もあり――この世界は鑑定眼のみが語る、大変厳しい世界なのだ。

 ――厳しい……

 ちらり ̄ ̄、とわなみは自分の事を棚に上げて偉そうに「不思議だ」「ありえない」を連呼する事務員少女を見やる。

「何ですか? 御主人。何か言いたそうですね」

「言ったら、金銭を要求するだろうが」

「当然です! 流石、御主人! 部下の事、分かっているじゃないですか。上司の鑑! 星乃ちゃんがここまで褒めたんですから、お金下さい」

 毎度思う。お前の思考回路こそ不思議だ、と。

 ――ことある毎に金銭を要求しおって。

 守銭奴の域を超えている、と常々思う。

「さあさあ、それじゃあ今日も張り切って貧乏人どもから金をむしり取るとしますか!」


 厳しい世界 ̄ ̄なんだけどな。



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