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鑑定浪漫
鑑定浪漫
霜月セイ
文芸・その他純文学
2025年01月12日
公開日
8.5万字
連載中
 大正浪漫時代。
 大政奉還前に生まれた文化品「浪漫財」を所持していないと、華族の身分を剥奪されてしまう、物が人の価値を決める時代。

 物の価値を正確に鑑定できる「鑑定屋」三条天満は、助手の星乃と共に、浪漫ある事件を華麗に解決していく。

       プロローグ

       *

 西暦一九八九年。


 時は、大商たいしょう時代。


 「大政奉還」以降、『大日本帝国』は西洋文化を取り入れ、多くの芸術品で溢れていた。

 昔ながらの日本独自の「旧芸術」と、西洋の影響を受けて独自の変化を遂げた「第二芸術」、そして西洋から流れてきた「新芸術」。

 多種多様な芸術に、人々は心を奪われた。

 街では歌劇が開かれ、小説や詩が思想を詠い――和と洋が混じり合った文化時代。

 ひと昔前までは芸術は上級階級の道楽であり、庶民が触れる機会すらなかったらしいが ̄―今は違う。

 何故なら、芸術はあらゆる点において平等だからだ。

 そして、人々は芸術を持って、己の思想を訴えるようになった。

 芸術を持って芸術を制し、芸術を持って社会へ訴え、芸術こそが魂の象徴。

 人の心を動かすのは、いつの時代でもどこの国でも――人の生み出す〝何か〟なのだから。


 大商時代。

 後に『文化戦国期』と呼ばれるこの時代では、全ては「芸術」が語る。

       *


 地獄の沙汰は金次第、という言葉を聞いた事があるだろうか。


 よくお金が全てじゃない、お金で買えないものもない、という人がいるが、あれは違う。

 結局は金が全てであり、金は天下の回りものであり、世界中のありとあらゆるものにはそれ相応の値打ちがつけられる。

 そう、それが ̄―命であっても。


『えー。それでは続きましてこちらの商品です! 年齢は十歳前後、病一つない健康体。東洋の少年です!』


 男の声に、会場を賑わせていた騒音が一気に静まり返った。つい数分前までは奇異の視線や歓声で賑わっていたせいか、静寂がやけに息苦しい。どちらにしても不快ではあるが。

『落札者はいませんか!? 愛玩動物にするには劣りますが、肉体だけは丈夫です。臓器はまだ使い物に……』

 静寂 ̄―。

 男の声は少しの焦りが滲み出ていた。

 男はしぶしぶ次の商品へ移そうと、少年の入った車輪付きの檻を移動させようとした。

 が、次の瞬間 ̄―その場には不釣り合いな凛とした声が響いた。

「待て! 落札者なら、ここにいるぞ。いらぬと言うなら、その少年、この私が落札しよう。落札額は……」


  ̄―そう、この世の沙汰も、金次第だ。


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