プロローグ
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西暦一九八九年。
時は、
「大政奉還」以降、『大日本帝国』は西洋文化を取り入れ、多くの芸術品で溢れていた。
昔ながらの日本独自の「旧芸術」と、西洋の影響を受けて独自の変化を遂げた「第二芸術」、そして西洋から流れてきた「新芸術」。
多種多様な芸術に、人々は心を奪われた。
街では歌劇が開かれ、小説や詩が思想を詠い――和と洋が混じり合った文化時代。
ひと昔前までは芸術は上級階級の道楽であり、庶民が触れる機会すらなかったらしいが ̄―今は違う。
何故なら、芸術はあらゆる点において平等だからだ。
そして、人々は芸術を持って、己の思想を訴えるようになった。
芸術を持って芸術を制し、芸術を持って社会へ訴え、芸術こそが魂の象徴。
人の心を動かすのは、いつの時代でもどこの国でも――人の生み出す〝何か〟なのだから。
大商時代。
後に『文化戦国期』と呼ばれるこの時代では、全ては「芸術」が語る。
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地獄の沙汰は金次第、という言葉を聞いた事があるだろうか。
よくお金が全てじゃない、お金で買えないものもない、という人がいるが、あれは違う。
結局は金が全てであり、金は天下の回りものであり、世界中のありとあらゆるものにはそれ相応の値打ちがつけられる。
そう、それが ̄―命であっても。
『えー。それでは続きましてこちらの商品です! 年齢は十歳前後、病一つない健康体。東洋の少年です!』
男の声に、会場を賑わせていた騒音が一気に静まり返った。つい数分前までは奇異の視線や歓声で賑わっていたせいか、静寂がやけに息苦しい。どちらにしても不快ではあるが。
『落札者はいませんか!? 愛玩動物にするには劣りますが、肉体だけは丈夫です。臓器はまだ使い物に……』
静寂 ̄―。
男の声は少しの焦りが滲み出ていた。
男はしぶしぶ次の商品へ移そうと、少年の入った車輪付きの檻を移動させようとした。
が、次の瞬間 ̄―その場には不釣り合いな凛とした声が響いた。
「待て! 落札者なら、ここにいるぞ。いらぬと言うなら、その少年、この私が落札しよう。落札額は……」
 ̄―そう、この世の沙汰も、金次第だ。