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11)

「一番手、円卓の騎士の中では最年少の赤髪。立ち回りは不器用なところもあるが、剣の太刀筋はまっすぐ、将来性のあるやんちゃな元気印ロイド・ワーナー」

「不器用、かぁ? これから修行を重ねていく。俺のことはロイドと呼んでくれていい。よろしくな」

 にかっと大胆に開いた笑顔は太陽のように眩い明るさがある。ロイドはいわゆるゲームのメイン攻略キャラクターの顔・パケ男(パッケージに大きく描かれている人物で、運命ルートや本筋ルートを担当するキャラであることも多くある。例外はある)だ。

 彼には親しみやすい空気がある。ゲームの時に見知っていた性格と変わりのない彼に安堵し、緊張していたレイラもつられて微笑んでしまった。

「はい。ロイド、よろしくお願いします」

「ああ!」

 ロイドと笑顔を交わしたところで、続いて、とノーマンが隣の人物の前に移った。

「二番手、物静かだけれどキレるとおっかないからあまり怒らせることはしないほうがいい、陰湿な双剣使い。茶髪のふわふわ頭エリック・モーズリー」

 なんだか悪口みたいに紹介されたせいで、ふわふわな茶髪が不服そうにふるふると震えた。

「……何それ、ディスられてる? 僕をどう説明しようといいけれど、ノーマンの語彙力のなさは魔法使いとは思えないね。聖女様、よろしく」

 と、気だるそうにかつ不機嫌そうにエリックがため息をつく。

 彼は陽キャなロイドとは正反対な陰キャのイメージだ。好奇心と警戒心を織り交ぜた、こちらの様子を窺っているような猫のような眼差しを向けられ、レイラはなんだか落ち着かない気持ちになってしまった。

「は、はい。エリックさん、よろしくお願いします」

「ん……」

 目を合わせるとふいっとエリックはそっぽを向いた。元のゲームでもそうだったように、彼と心を通わせるのはなかなか難しいかもしれない。だが、嫌悪感を抱かれているわけではないのが救いだ。

 続いて、とノーマンがまた隣へと移る。先に紹介された彼らよりも背丈がすらりと伸びた人物が待っている。だいたいノーマンと同じくらいの身丈だが、それよりも線が細くて雅な雰囲気がある。

「三番手、朝露に濡れた葉のような髪が特徴の、我が円卓の頭脳とパワー、ギル・コートネイ」

「エリックの言葉を受けて少し考えたのでしょうか。なんだか不自然な誉め言葉ですが……聖女様、どうぞよろしくお願いいたしますね」

 そう言ってふふっと笑った、艶やかな緑の髪を後ろで結っているギルは、中性的な雰囲気があるが鋭い剣先のような知的さが凜と備わっている。

 前世での記憶からすると、戦略を考えるならば彼を中心にという感じだった。円卓の騎士内の参謀役というところだ。

「ギル様、よろしくお願いいたします」

 つい、癖のように呼んでいた呼び方で、様をつけたくなってしまった。

「ふふ。硬くならないで構いませんよ。我々のお姫様」

 にこり、とギルは微笑んだ。妖艶な空気にちょっとだけドキリとした。彼は確実に色男担当というのがこれだけでもわかる。使用人のモブ女達が色めき立つときは、常に彼の姿があったものだ。

「それから――」

 ノーマンが最後にたどりついた人物は一番、背丈が低く、前髪で目元が覆われていて表情が乏しい……というより、読み取らせないようなバリアを張っている。近づくのが躊躇われる緊迫感があった。

「四番手、我が円卓の騎士の隠密……短剣を使いこなすジェフ・ガードナー。黒髪に隠された目の奥は、ミステリアスで何を考えているかはわからないが、情報は的確に与えてくれるから信用していい。暇になると猫や犬を連れてくるから気をつけるように」

 ノーマンがついでに小言を付け加えたが、紹介されたジェフは気に留めずに頭を揺らした。

「……よろしく」

 湖面に小石をそっと投げたみたいな、かき消されるような響きの声だった。

 ジェフは物静かなエリックとはまた違う静謐さを保っている。隠密といわれるのも納得の忍びのように気配を消している感じだ。しかしそこはかとなく繊細なやさしさが滲んで見え、任務以外に人を殺めない、動物が好きだという彼の性格を物語っている。

「はい、ジェフさん、よろしくお願いします」

 レイラが挨拶をすると、ジェフの前髪が少しだけさらりと動いた。その髪の動きは、彼の感情表現の手伝いをしているのかもしれない。

「最後に、我が国の救世主、そして、この先あなたの聖騎士となる者……アシュリー・クレイ」

 その名を胸に刻んだとき、どきんと鼓動がひと際高く音を鳴らした。

 アシュリーの紹介は既にされているが、流れを汲んだノーマンが一周まわって中央へと戻ってきたのだった。

 その中央にはレイラと同様に白い騎士装束に身を包んだアシュリーの姿があった。金銀の飾りがついた憲章がきらりと光る。しかしそれ以上に彼の存在こそ強く放つ光があった。

(アシュリー)

 ひと際輝くその麗しき姿を見た瞬間、レイラは落雷を身に受けたかのような衝撃を覚え、息を呑んだ。光を背負った彼はそれほどの魅力に溢れていた。

「聖女様……我が君。謹んであなたへの忠誠をここに誓わせていただきます」

 揺るぎない決意を灯したアシュリーのアメジスト色の瞳に、心ごと吸い込まれてしまいそうになる。少しも彼から目を逸らせない。

 真面目で堅物なところがあるけれど、穏やかな雰囲気を持つアシュリーは、やさしくあたたかな包容力に溢れている人物だ。

 ノーマンに説明されなくても彼の魅力はレイラにはしっかりと刻まれている。

 前世でも今世でもレイラにとって【推し】は彼だけ。彼しかいない。そんなふうに焦がれるような想いが胸の内側を熱くする。


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