縁なしメガネをベッドに投げ、少し上を向いてネクタイを斜めにシュッと引き抜く。反対の手でプツプツとボタンを外して腕を引き抜くと、白いシャツを無造作に床に投げ捨てた。
「ふぅ……」
ギュッと内側に押し込められていた物がパンッと解放される感じがする。このホッとできる瞬間が堪らない。
「五分くらい無駄になった。なんで邪魔したかなぁ……」
肌着を脱ぎながら唇を尖らせた。
部屋に戻る途中、大きな時計とブランド物のバッグが目立つ男に誘われた。
サラサラ揺れるストレートの髪。
長い睫毛に縁取られた目元。
薄く紅を引いたような唇。
ハイレベルな資格を幾つも取った明晰な頭脳――。
頭も容姿も完璧な君のことを深く知りたい。
秘められた君の姿も見せてもらえないかな。
男は淀みなく言ってくれたが、笑いを押さえるのが大変だった。
「あれって『素敵ね。ご一緒しましょう』って成功するもの?」
腕を掴まれそうになって半歩下がり、そっと微笑んで首を左右に振って見せた。
付いていけば、美味い夕飯をタダで食べられたかもしれない。
でも、それよりもっと魅力的な予定があった。
元モデルの母親から学んだ断り方で男をあしらった理由。
それは――。
「あぁ、やっと!」
軽やかな歩みでベッドへ向かい、白いシーツに倒れ込んだ。うつ伏せのまま全身の力を抜けば、至福の時が始まる。
「幸せぇ……」
一糸纏わぬ姿で何もせずにダラダラと怠惰な時間を過ごす――。
このオフの時間が堪らなく好きなのだ。
「オムツ準備すれば良かった。そうしたらトイレにも行かなくて済むのに……」
心底、後悔しながら呟き、ゆっくりと寝返りを打った。
腕や足に空のペットボトルや口が開いたゼリー飲料のパックがぶつかる。
「ん~、邪魔」
腕と足を雑に動かし、ゴミをベッドからバラバラと落とす。これでゴロゴロするスペースが確保できた。
「んふふ」
一寸の狂いもない美に彩られた顔に恍惚とした表情を浮かべる。
空の菓子箱やコンビニの袋、シャツ、下着、濡れたフェイスタオル、しわくちゃのバスタオルなど。あらゆる物が足の踏み場もないくらい広がった部屋で、もう一回熱い溜め息を吐いた。
「――オフって、さいこう……」
大手総合商社・