小雨が去った後、泡沫は団子の串をくわえながら、空を見上げた。
橙色の光が、藍色の闇に呑まれていき――夜の気配が、訪れた。
「しっかし、本当に人ってのは不思議だね。こういった光景に風情を感じ、そこに想いを馳せて、歌を詠うのだから」
「そして、その歌が、今度は人の心を喰らっている」
目の前に影が出来た。泡沫が見上げると、案の定、そこには見知った顔があった。
「巴さん」
白銀の長い髪に、白い着物。藍色の羽織を肩にかけた、お決まりの格好で巴は立っていた。
「やあ、泡沫。珍しい所で会うね」
「そういう巴さんは、また検診かい?」
「まあ、そんな所だよ。町医者は忙しくてね」
と、巴は優しそうな笑みを浮かべた。
「それより、泡沫。さっきのお嬢さんだが……」
「ああ、分かっている」
「ならいいが。君は、薄情そうに見えて、情に脆い所があるからね」
「よしてくれよ。賀照じゃあるまいし……それに、結局、決めるのは、当人次第さ」
どこか投げやりな泡沫の様子を見て、巴は小さく息を吐いた。そして、振り返り――夕日が大地に落ちる瞬間を見つめる。
「『君がため 惜しからざりし 命さへ 長くもがなと 思ひぬるかな』――君も、考えたもんだね。歌を上書きしようとするとは」
「……」
泡沫は、答えない。
「それで、効果はありそうかい?」
「さあ、そんなの、あっしに分かるわけねえだろ。人間の気持ちなんざ、あっしらには一生かかっても理解出来ねえよ。だって……」
「人じゃねえんだから」