絵里は相部屋の士官室で着替えながら自分達の行動を顧みて思う。
自分も含めて大人達が情けない。現役女子高生に艦を任せながら、助言もなしに彼女の好き勝手にやらせ、その全責任を叶多へ押し付けている。
しかし周りも周りだが叶多も悪い。周りを一切頼ろうとせず、自分がすべてを負う覚悟を決めているのだ。
それではまるで大人達が彼女をスケープゴートにしているようではないか。道しるべも示さず、迷って泣いても助けず間違った道を歩き続けさせ、自分達は知らん顔で責任逃れ。
憂う心を溜息にのせた絵里だったが、もはや今更言ってもと式典用の第一種夏服に袖を通して部屋を出た。
格納庫では交渉役と護衛を乗せるヘリコプターが後部甲板へ引っ張られていく。
それを隅で見守っていた叶多。絵里は白い制服に身を綴んで第六分隊を率いていた彼女と顔を合わせた。
「絵里さん、ブリーフィングでも言いましたけど、戦闘は極力避けてください」
「向こうの出方次第ね。こっちにそのつもりが無くても、向こうがやる気のときは」
「私が全責任を負います」
「それは大人の台詞よ叶多。少しは肩の荷を下ろしなさい」
「ですけど」
「情けない話だけど、こういうネゴシエーションぐらいでしか役に立てないのよ。大人なのにね」
絵里は自虐的に言うと叶多は自信を持った顔で、
「こういう場面だと凄く心強いんです。絵里さんや皆さんが居てくれて」
慰めるわけでもなく、本心から語った。
本当に大人の立場なんてないのね。絵里は微笑んで彼女の肩を叩いてヘリへ乗り込む。
「再三かも知れないですが、戦闘は極力避けてください。もし戦闘が発生した場合は最小限の攻撃で撤退してください」
「善処するわ。叶多も交渉の後は王都へ招かれてるんでしょう。ゆっくり休んでなさい。お姉さんからのお願いですっ!」
「分かりました。良い結果と全員の無事を待っています!」
艦載ヘリ『ステアトル』が七人を乗せてエンジンを始動させた。
甲高くスピンアップするターボプロップエンジン。プロペラシャフトに動力軸が直結されるとメインローターが目まぐるしく回転を始め、『ステアトル』は拘束を解かれる。
発艦。明け方の空に飛び立つ純白の機体が遠ざかっていくのを、叶多は祈りながら見送っていた。
作戦の推移はもはや目視できない。叶多は甲板から中へ入ってCICへと向かっていた。
艦内はCICの人員以外は通常の勤務で回している。朝も早いからか酷く静かで、すれ違う人間も疎らだ。
食堂を抜けて、艦橋構造物の下の方へ入ったとき、食事を終えたフェアリが気難しい顔で叶多へ尋ねる。
「私も後から追っていいか?」
「後から?」
「あぁ。私が居た方が何かと役に立つかと思ってな。魔力探知出来れば、周囲に魔法使いがいるかも分かる」
叶多は盲点を突かれて面を喰らった。
優秀な魔導士、、魔法使いであるフェアリを随伴さえれば相手の意図がある程度は分かる。敵の魔法使いや兵士の見分けが出来れば交渉せずに引き返すことだってできる。
「すぐにお願いします!」
慌てて返答したが、その直後にフェアリの顔が険しくなった。
「どうかしましたか?」
「魔力が……近づいてくる」
「近づく?」
探知に引っ掛かったのが先か、まさに彼女が言った瞬間、
「スパイレーダーが本艦へ向かう対空目標を探知。本艦の右40度、距離31マイル、数4」
閑静だった艦内が慌ただしく目覚める。叶多はCICへ走り、イージスシステムは『はるな』クルーと共に戦闘態勢へ移行した。