まや型護衛艦に類する『はるな』は全幅24メートル、全長180メートルと従来艦よりもほんの少しずんぐりしている。
理由は艦載機搭載数を2機に変更したことだ。艦載ヘリコプター『SH−60L』と垂直離着陸が可能な攻撃機『SAV−8シーハリアーⅡ』を搭載するに合わせ、叶多が建造段階で設計を見直した。
ヘリに比べて巡航速度が速く、航続距離も長いハリアーは水上艦艇との相性は極めて良い。その反面で機体整備時間の増加や複雑化、着艦時の搭載燃料と兵装に限りがあるのがネックだった。
その艦載機格納庫は異世界に来てから休む暇もなく稼働している。
伊吹は眠い目を擦りながらヘリのコックピットへ乗り込んだ。
飛行前チェックリストはクリアを確かめた後、背後の機関銃に目が行った。
「ドアガン」
「副長からの意見具申だそうで」
銃架に添えられたM2重機関銃の銃身が伊吹の横目に眩しく映る。
それはブリーフィングでのこと。
「コービット公爵からの提案を受けようと思っています」
国王への謁見とオリント側との交渉の件で、プレイヤーと各科の長が集まった。
叶多の意見に誰もが肯定的な反応をした。
「交渉の件なら、私が行くわ。正直な所、叶多に任せるのは少し不安なのよ」
「そうしていただけると助かります」
絵里の言葉に叶多は肯る。
友好的である保証がない相手との交渉は苦手だ。カントやフェアリとは違い、相手の要求を上手く躱さなければならないし、それが出来ていれば虐められない。
「場所はミラマリンより北方90キロのカルム村。ここにはオリントが交易所として開放している市場と駐在所があるみたいです」
「大使館ってわけね。となれば、敵になるかも知れない相手の懐に入るってことになる。向こう側にも譲歩の姿勢があるように思うけど、ヘリには対地兵装と完全武装の一個分隊の随伴を具申します」
「しかし絵里。相手は話し合いを申し出てるんだぞ? 武器を持ちだすのは失礼に当たらないか?」
「護身用よ。貴方と同様に私達は一線を超えた。今頃、懸賞金を賭けられててもおかしくない立場なの。どうかしら艦長?」
「身を護るための最低限でお願いします。裁量はお任せしますので。ただ、戦闘は極力避けてください」
「了解。整備クルーには指示しておく」
叶多の言葉は曖昧でどうとでも取れるものだった。
必要最低限ではあるが、裁量は一任する。解釈によってはどんな装備も許されたということになる。
恐らく絵里は意図して重機関銃と空対地ミサイル『ヘルファイア』の搭載に踏み切ったのだろう。
出発まで約二時間。戦闘の火蓋が切られるその瞬間を、彼女は図らずも早く来ないかと待ちわびていた。