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第22話

「ステアトル、着艦しました」

「叶多に後甲板で待機するよう伝えて。船務長、ここは任せるわ」

「了解です」


 ベアトラップに捕まえられたヘリが波間で不安定な甲板に吸い寄せられて接地。


 エンジンを停止してプロペラを畳むと格納庫で眠るようにジェット攻撃機『ハリアー』の横へ並んだ。


「ちょっと叶多! 生存者の受け入れなんて何も聞いてないわよ!」


 凄い剣幕で停止した艦載機に寄ってきたのは副長の絵里だった。


「すいません……ミラマリンの公爵さんに頼まれてしまいまして……」

「だからって簡単に承諾し過ぎよ。もう少し段取りとかあるでしょう……」

「ご最もです」


 今回は独断が過ぎたと反省する。絵里にとったら寝耳に水の事だ。


 しかし叶多への説教が途端に止まって、彼女に視線が腰のあたりへ落ちていく。


 追うように向くと服を引っ張りながら後ろへ隠れていたエペが、怯えた様子でそのやり取りを見ていたのだ。


「かわぁぁぁぁぁ! お嬢ちゃんお名前はー? どこから来たの? ご飯は食べた?」

「誰?」

「この船の偉い人。絵里お姉さん」

「お姉さんですっ!」


 可愛いものを前にすると途端に人が変わるお姉さん(27)。


 絵里はエペを見るや興奮気味に鼻息を荒くして質問攻めにする。ますますエペの恐怖心は煽られていった。


「あぁごめんなさい。怖がらせちゃったね。『はるな』副長の神無月 絵里よ。この方たちは?」

「自己紹介まだでしたね。本艦『はるな』へようこそ。柊 叶多です。えっと、じゃあ」


 とんとん拍子で連れてきてしまったが、名前を聞き忘れていた。


「フランカ・ミグフィリア。フランカと呼んでね」


 八重歯を見せてニッと笑った長い耳の少女『フランカ』は気さくに言ってピースした。


「キリア・クルールです」


 翡翠色の瞳の子がキリア。フランカとは対称的で淡泊に言った。


「それでこの子はエペ。エペ・フラグランスさんです」

「エペちゃんかぁ。ひとまずお風呂に入ろっかー」

「なんでもいきなり過ぎません?」


 叶多のツッコミなど聞く由もなく、絵里は攫うようにエペの手を取る。


 困惑した様子のエペは縋るような眼を向けるが、笑顔で答えてやると素直についていった。


 あれじゃ、まるで人攫いみたいだ。


「私達もその『お風呂』ってところに入ってもいいかな?」

「あっはい。さっき居たロリ……じゃなかった、副長に付いて行ってください。離れると、絶対に迷いますから」

「それじゃキリアさんとやら。行きましょっか」

「えっ。私はいらないです」

「いいからいいから。大変なことがあったときは、身体を洗って温めないと」

「温める? 身体を?」

「あー。うん。そういう施設……だと思う。どう? 当たってる?」

「よく分かりましたね」

「はえー。適当に言ったのに当たった」


 適当に言ってたんだ。まるで知っているような口ぶりで話していたフランカだったが、当てずっぽうだったらしい。


 格納庫からそそくさと出て行った二人の背を見送る。


 ようやく一息が付ける。そう思いきや


「見つけました艦長! すぐに艦橋までお願いします!」

「はいっ!」


 廊下との扉で船務科のクルーから声を掛けられる。まだまだ気が休まりそうにない。


 艦橋へ上がると連絡係のフェアリが戻っていた。


「帰ってきて早々に申し訳ない。カント公爵から招待と依頼の伝言だ」

「依頼?」


 内心では早々にここを離れるつもりだったのだが、カントからの伝言でそれが彼方へ吹っ飛ぶ。


「国王様との謁見とオリントとの交渉を……ですか」

「どうだろうか?」

「同時並行はできませんね……私か副長は船に残らないといけないですから」


 叶多は訝った。


 どうやらクティオケテスを撃退した功績が国王の耳に入ったらしい。同時にアレを重宝するオリントからは抗議と今後の交渉という名目でフェアリやエリーゼ側の外交官が呼び出されている。


 フェアリは『はるな』が持つ能力の一部を示すことでオリント側をけん制したい。そうストレートに言われた。


「それで引いてくれるなら苦労はしないんですけど」


 戦力を見せつけることでエリーゼとオリントの関係悪化をエスカレーションさせることになるかもしれない。


「クルーと話し合ってから追って答えを出します。この件ばっかりは、私の独断では決められないので」

「分かった。コービット公爵にも伝えておく」

「明日の夜までには結論を出しますから、そのようにお願いします」


 答えを引き延ばす。いずれにしてもこういう国家絡みの事は決断できないと叶多は考えて即決はしない。


 国王への謁見とオリントとの交渉。叶多が描く『はるな』の航路はだんだんと険しさを増していくのが目に見えるのだった。


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