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第11話

 ジューじゃん参加者全員にジュースが行き渡ったのを見守ると、集っていたクルー達は持ち場へ向かっていった。


 残ったのは叶多と絵里、そしてフェアリだ。『はるな』自慢のカレーを美味しそうに頬張る顔を見て、食べたばかりなのにお腹が空いてきてしまった。


「しかし、異世界にはこんな旨いものがあるのだな」

「こっちには野菜とかあるんですか?」

「野菜か」

「じゃがいもとか人参とか」


 実物はないので、副長が持っていたタブレットで写真を見せる。


 これも重要な情報収集だ。異世界で流通してる食物の情報は補給の面で大いに役立つ。


「知らないな。このような美味な食材がある叶多達の世界。興味が湧いてくる」

「やっぱり無いですよね……補給物資の中に野菜とかあればいいんですけど」

「でもこの世界の物を口にしていいのかしら」


 絵里がふと眉根を寄せて言う。


「どういうことです?」

「ヨモツヘグイって知ってる?」

「確か黄泉の国の物を食べると黄泉の国の人間になるって伝承ですよね? 国語の先生の余談で聞いたことあります」


 黄泉の国、死者の世界の物を食べたら現世に戻れないされていた。実際にはそういう穢れたものを食べることみたいな意味があるとかないとか。


「私達がこの世界の物を口にしたら、恐らくは帰れなくなってしまうんじゃないかしら?」

「そのような恐ろしい伝承があるのか。その心配ならないと思うぞ。現に私はこうして食べてここにいる。仮にヨモツヘグイなるものが現象として存在していたら、私は消えているはずだろう?」

「確かにそうですよね。私達の世界の物、平然と食べてますし」


 現にフェアリはカレーを食べてしまっているが、変化など起きてない。試しに簡単な風魔法で掌に渦を作っている。


 絵里の杞憂だと捉えて気にしないことにした。


 何も食べない異世界生活などそんな理不尽なことはない。きっと深く考える必要はないんだと叶多は自分自身で腑に落としていた。


 食堂の電話が鳴ったのは丁度そのときだ。


「艦長、目標の島まで残り3マイルです。ブリッジまでお願いします」

「了解です。すぐに戻りますね」


 時間が立つのはあっという間だと痛感させられる。思考を吹き飛ばすように呼び出された叶多は二人を置いて艦橋へと上がった。


 外はすっかり暗くなっていた。一面が闇の世界。黄色い灯りの群衆がミラマリンの街並みだが、横須賀や東京の夜景を見ていた身としてはどこか味気ない。


「日没が予想より早いですね」

「こちらの天体データが不足していたのが原因です。すいません」

「良いんですよ。データがなかったのなら仕方ないですし。後でフェアリさんやミラマリンの人達に季節や気候のことを聞かないとですね」


 陸へ、丘へ上がれると思い、叶多の心は躍っていた。


 しかし綺麗な夜景が一瞬にして淡い緋色の炎へ変わる。


 艦橋の強化ガラスが揺れ、船がうねりを受けた。その直前に叶多の眼は海面を這う衝撃波を確かに目撃し、これが何かの攻撃であることを決定づける。


「今のって」

「CICから艦橋へ。対水上目標を探知。距離8マイル。敵速はゼロ。停泊しています!」

「対水上目標?」

「恐ろしく巨大な影です。対空レーダーにも引っ掛かってます」

「CICに降ります。船務長、ここを頼みます」

「了解しました」

「それと副長に伝言を。フェアリさんから絶対に眼を離さないでと」


 レーダーに映ったブリップ。その正体には心当たりしかない。


 フェアリが飛び出していく気がして、今しがた一緒にいた絵里にお守りを任せることにし、叶多は早々に艦橋から退出した。


「私がCICについたらすぐに対水上戦闘を発令します。準備だけしておいてください」


 異世界沖にて、イージス艦『はるな』とクティオケテスの第二ラウンドが始まろうとしていた。


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