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第7話

 不明艦の正体を掴むべく、撃沈したポイントに到着した『はるな』。


 右舷ウィングで双眼鏡を手にした叶多は、血で染まった海を前に固まった。


「左舷側、浮遊物多数。不明艦は木造船だった模様」

「運悪く弾薬庫か、可燃物に引火したようですね」


 平然と話す当直士官達。その報告にさえ叶多の耳からは遠くなっていき、眼の前に浮遊する死屍累々の惨状に目が行ってしまう。


 艦内放送をジャックしたあの少女の言葉が脳裏を過る。


 異世界転移。そんな設定で進行するゲームの世界だと私は理性的な思考は未だ思い込もうとしていた。ここはまだ仮想空間で、単に閉じ込められているだけだと信じたい自分があった。


 私がこの地獄を作り上げた。助けを求める声も、痛みに喘ぐ叫びも許されなかった骸の海を、ただのいじめられっ子が作り出してしまった。


 人を殺した実感が湧かない。人の命を奪う、そんな禁忌に触れた感触がない。


 体が強張って制御が利かなくなっていく。自然と震え、罪の意識で泣き出してしまった叶多に、艦橋のクルーは驚きと困惑の面持ちで返していた。


「艦長、少しお休みになられてください」


 船務長の言葉も耳を通り抜けるだけ。何をすればいいのか、何をしていいのかも分からず、じっと青と赤の艦長席で固まった。


 そこへ副長の絵里が飛んでくる。


「艦長は、叶多はいる?!」

「こちらに。でも」


 船務長が言いかけると前のめりになりながら虚ろな顔を見た。


「しっかりしなさい叶多」

「絵里さん……私」


 人を殺した——叶多は言いかけて閉口する。


 言葉に出したら認めてしまうと思った。この現実を……自分の非道を。


「生存者の救出を最優先。急いで」

「アイサー!」

「船務長、艦長を自室へ。頼むわね」

「了解です」


 絵里は独断で指揮を引き継ぎ、叶多は船務長に連れられて艦橋を離れたのだった。


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