トントントン
「おお、俺の工房か……」
「ガンガン鉄砲を量産してもらうからな幸之助」
幸之助が尾張に帰還し、鉄砲の現物を持って帰ってきた。
10丁以上製作に関わり完璧に覚えたらしい。
今は鉄砲を作るための工場の建設をしていた。
熱田の町から少し外れた川沿いの場所で鞴で窯を暖めるための水車を導入し、今の技術でできる限りの最新技術を動員する。
俺は鉄砲が今後の戦を大きく変える事を知っているため、鉄砲を作る鍛冶師を募集するが、高い身分でもないので人員がなかなか集まらない。
仕方がないので多聞丸経由で1人契約金10貫、給料は1ヶ月5貫という破格な値段(現代価格で1貫12万円)で甲賀の鍛冶師を10名引っこ抜き、工場完成と共に鉄砲の生産を開始した。
鉄砲は大きく分けて発射口、筒、発射装置、安定のための銃床と分けられる。
難しいのは発射装置の部分で、それ以外は既存技術の応用で作り出すことができる。
特にネジの雄ネジ雌ネジはネジ文化が無い日ノ本では幸之助も量産化の課題がここであると明言していた。
まず俺は火縄銃の構造を理解してもらうために基本部品を木材で作った木銃を火縄銃の構造を確認しながらホームセンターの道具で複製し、雄ネジは事前に作っておいた型に金属を流し込む事で作り、雌ネジは熱した銃身……筒の底の部分に雄ネジと同じ型の金属棒を当てる事で型を作ることでヤスリで1つ1つ削るよりも早く形を作ることに成功する。
その他にも鋳造を多様することで生産性を上げ、幸之助が帰ってから2ヶ月、工員も幸之助を入れて11人ながら日産3丁の鉄砲の生産が可能になった。
材料と人件費を加味すると1丁4貫必要になるがこれで鉄砲の本体はどんどん出来上がっていく。
残りは火薬である。
火薬の量産化は領地も無いので基本輸入になると思うが……
「家操様」
「なんだ多聞丸」
「火薬であれば少量なら甲賀の里でも作っておりますが」
「金払うから増産してくれねぇか! 数年かかるだろ?」
「よくご存知で」
「契約結ぶから火薬あるだけ買うぞ。そうすれば甲賀の里も潤うだろ」
「ありがとうございます」
というわけで今は少量ながら火薬を入手するに至った。
で、俺は完成した鉄砲をホームセンターの工具を使ってライフリングを刻み、弾丸にミニエー式のを個人で鋳造してみた。
幸之助にもライフル銃を見せたが
「工程が複雑化するな」
と難色を示された。
俺は変わりに銃身を八角形にすることを提案し、俗に言うポリゴナルライフリングにミニエー弾を使用するのであれば製作過程の銃身の穴を開ける棒を八角形にすれば良く、ミニエー弾も鋳造で型さえあれば量産することが可能であった。
で、吉法師様に完成した鉄砲を見てもらうことにした。
那古野城の家老達も見守る中試射が行われ
バン バゴン
俺の発射した弾丸は木の板の的の中心からやや下に初撃は命中したが、次は偏差を修正して、より真ん中近くを撃ち抜く事が出来た。
木の板ではなく足軽の鎧が置かれたが、これは弾丸が鎧を貫通し、背中まで穴が空いていた。
「射撃間隔が長いことに目をつぶれば使えなくは無い武器になるでしょうか?」
「いや、これ1丁が5貫するらしい。数を揃えるとなると相応の金額が必要だ」
「射程距離は如何ほどか?」
林様が聞いてきたが、俺が約60間(108メートル)ほどと応えるとやや落胆の声があがった。
弓の方が射程が長いからである。
いくら鎧を貫通できても値段を考えるに高い玩具になりそうだと言うのが多くの者が考えることであるが、俺が
「現在改良型を製作しており、射程が3倍ほど伸びる鉄砲が量産に入りました」
そう言うと
「180間であれば弓の射程と同等か」
「しかし弓よりも連射できない、雨では使えないと制限は多いな」
「本当に使えるのか?」
疑問も多く出る。
吉法師様は一旦この試射会は解散させて、俺だけ個別に呼び出された。
「前から戦が変わると言っていた鉄砲だが、欠点も多いぞ。1度銃を放つと再装填に弓は3発も放てるのでは話にならんが」
「しかし、吉法師様、これは技量が狙うと装填のみです。尾張の弱兵でも三河や美濃の強兵を1撃で射殺することが可能ですし、この銃の射程は現在織田家だけが有している利点になります。他の家では鉄砲が伝わるまであと5年から10年は掛かるでしょう」
「うむ、では密集して放つことができないのはどうする? 他の者が発砲すると煙が舞ってしまい発砲ができなくなるが」
「一斉に放つ、煙が舞っている間に再装填する、晴れたら再び一斉掃射と訓練をすればできると思われます。兵100人を指揮する権利を与えてもらえれば相応の働きをしてまいりましょう。鉄砲も当面は私が実費で購入しましょう」
「それに鉄砲はまだこの国に伝来してから間もない武器です。雨が欠点であれば多少の雨であれば大丈夫なように火縄に油を染み込ませ、雨覆いを開発すれば良いですし、発射間隔の問題は火薬と弾丸を一緒にした入れ物を開発すれば多少は弾込めの時間も減るでしょうに……」
「鶴、お前そんなに色々考えられるのは凄いな。銃1つにしてもそうだが……金儲けも然り、石鹸や食事の改良と本当に色々やるな」
「少しでも吉法師様のお役に立ち、自身が将来偉くなって城持ち……いや吉法師様が天下を治めるようになったら国持ちくらいにはなりたいですから! そして家族を腹いっぱい食わせて楽させたいですし」
「お前の欲は見ていて気持ちが良いからな。最初は出世しよう、利用しようという欲が強く見えたが、蓋を開けてみれば織田家や余に利益があることばかりだ……お前が出世を続けられる天運があるのであれば家族になりたいものだ」
「その言葉だけでも私は嬉しい限りです。吉法師様」
「うむ!」
その後、吉法師様と熱い夜を過ごすのだった。
【吉法師とセフレになった 家操は開発された 吉法師の弾道が上がった】
「家操アニキ! オラを雇ってくれねぇか! この通り!」
ある日日吉丸が俺の家に転がり込んできた。
どうしたのか話を聞くと竹阿弥と大喧嘩をして家を飛び出してしまったらしい。
喧嘩の原因は家の中で日吉丸だけがなかの連れ子という立場で竹阿弥からの当たりが強かったらしい。
日吉丸は懸命に働いて見返そうと思っていたが、竹阿弥は田畑を弟の小一郎(後の豊臣秀長)に継がせると断言し、それはないぜと大喧嘩。
出ていけと言われたので売り言葉に買い言葉で本当に家から出ていってしまったらしい。
「じゃあ日吉丸、家出したってことは大人として働くつもりということだろ? 元服して木下秀吉ってこれから名乗れよ。何、仕事は山程ある。手伝ってもらうぞ」
「流石家操のアニキだぜ! 話がわかる!」
「智、秀吉の元服祝だ! 今日は俺が飯作るぞ」
秀吉の元服祝いとして俺は唐揚げを食べさせてやった。
「うひょー! 美味そう!」
「これを食べた後に柑橘の汁を少しかけてみろ! また味が変わって美味しいぞ」
「本当だぎゃ! 美味いだ!」
秀吉には同じ長屋に部屋を与え、俺の付き人として油工場からの買い付けを頼んだり、油工場の米ぬかや椿の実を各村から集めてもらったり、座との交渉をやってもらったり、ある時は石鹸の売り子やオナホールを上級武士の家に届けさせて顔繋ぎをしたりと俺はできる限りの秀吉のサポートをしてあげた。
秀吉自身も優秀かつ頭の回転が物凄く早いので、与えられた仕事を次々に覚えてものにしていった。
俺も秀吉に毎月給金として10貫の大金を与え
「贅沢するのも、この金を使って将来の投資にするのも自由だ。考えて使えよ」
と言った。
秀吉は俺に負けないように努力を続け、いつも
「家操のアニキが城持ちになったらオラが家老になってアニキを支えるんだ」
と張り切るのだった。
【秀吉が部下になった】