干し椎茸を売却して数日後、俺は残りの干し椎茸を園城寺和尚に持っていった。
「和尚、紹介料になります」
「これは……まさか……椎茸か!? しかもこんなに沢山……お前さん価値はわかっているのか!?」
和尚は京付近で高僧をしていただけあり、村人とは違って椎茸の価値を知っていた。
「山で採れて貴重だとわかったので和尚への紹介料として渡そうかと」
「……本当に佐助の巡り合わせと言うか……凄いな。しかし儂に渡すよりもこれから紹介するお方に半分は分けておいた方が喜ばれるぞ」
「あ、既に分けた後なのでお気に召されず」
「そ、そうか……では遠慮なく貰うぞ」
和尚は額から汗を流しながら金塊を受け取るように慎重に籠を受け取った。
「しっかり紹介してやるからな! 佐助や!」
「はい! お願いします」
和尚と一緒に熱田に向かうのだった。
【和尚の評価はカンストだ】
今日合うのは山科助綱様という貴族のお方らしい。
この時代の貴族といえば食う物に困って高貴な身分でも釣りをしたり、山菜採りをしたり、場合によっては物乞いの様な真似事をして飢えを凌いでいた人もいるくらいには貧乏であり、山科助綱様も産まれは藤原北家四条家の分家で羽林家の家格であり、相応に高いのだが、次男ということで散位であり、京では仕事に就くこともままならなかったらしい。
そこで兄が東国の大名にタカる……ゲフンゲフン、帝に寄進してもらう旅をした際に護衛としてついて回り、織田家の教養顧問として職を得たので、尾張の熱田に定住しているとのこと。
そんな偉い人との繋がりがある和尚も凄いが、山科助綱様は身分にだいぶ寛容な方で、農民上がりでも相応の知識と勉学への熱意、しっかりとした謝礼があれば色々と教えてくれるとのこと。
貴族でありながら武芸にも才があるらしく、京付近にあった荘園に賊が入ってきた際には自ら退治したほど武芸にも富んでいるらしい。
「見えてきたぞ。あの家じゃな」
和尚が指差すとそこそこ大きな屋敷があった。
門番に和尚が事前にアポを取っていたらしくすんなり通してもらい、屋敷に入ることができた。
「園城寺や久しいな」
「お久しぶりでございます五位殿。お元気そうで何よりです」
山科助綱様は五位殿と呼ばれているらしく俺も平服している。
「そなたが園城寺の言っていた佐助という者か。顔を上げよ」
「はっ!」
俺が顔を上げると麻呂顔ではなく、顔の濃い……正直ヤクザみたいな強面のイカつい男性がいた。
「驚いているようじゃな。儂は化粧は公務の時以外好まんからな。庭で土いじりもするで日に焼けて肌が焼けて黒ぐろとしているでな」
いや、肌の色より強面フェイスの方が目に行く。
ただ五位様はニコニコしており、敵意がないことはよくわかる。
「五位様に教えを請いたく、少しばかりですが気持ちをお受け取りください」
「ほほう。どれどれ……こ、これは椎茸!? これ全部椎茸か!?」
「はい、干し椎茸8升分(12キロ)はあるかと」
「お主価値がわかっているのか?」
「価値がわかった上で五位様に教えを受けるに適正な対価と判断したまでで」
「若いから侮っておった。いや、立派な心がけ。うむ、受け取ろうぞ」
椎茸を受け取った五位様に勉学を受けたい、五位様の秘伝以外の技術を授けては貰えないかと頼むと
「うむ、あれ程の心遣いを無碍にすることはできん。誠意を持って教えようぞ。冬の間は畑仕事も無かろう。住み込みで学ぶのはどうだ? 家には空き部屋もあるからのぉ」
そう提案されて是非ともお願いしますという話しになり、俺は1段上の教育を受けることとなるのだった。
その日は実家に帰り、事情を説明し、冬の間住み込みで修行してくると言うと、アニキと親父達から頑張ってこいと背中を押された。
こうして始まった五位様の所での住み込みだが、格式ある場での席次のセッティングの仕方や料理を出す順番等のやり方だったり、服装の着付けや槍術や剣術をも教わった。
一番は五位様の小者として五位様の行く場所について回る事でコネが増えた事だ。
普通の農民なら一生会えない様な織田家重臣の方々へ礼法を学ぶ場を整え、裏方に徹しながらも顔を知る機会を得ることに繋がるし、重臣の更に下の家臣の方には直接会って会話することもできた。
また五位様の所に出入りする商人達への買付を行うことで熱田商人や更に遠くの商人とも顔を繋ぐ事ができ、俺が一番欲しかったコネを大量に得ることに繋がった。
文字通り世界が広がったのだ。
俺は教わりながらも五位様に喜んでもらえるように雑務を積極的に引き受け、ある時は同僚達の食事として中華麺を作り、塩焼きそばを作ってみたところ、五位様に捕まり、五位様もお食べになられると好物の1つと言われるくらい塩焼きそばに五位様はドハマリし、五位様に包丁術を習うというなかなか得られない技術も教わることができた。
あと五位様の所にいると寄進として新鮮な海産物を譲られる事があり、それを下の俺たちも痛まないうちに食べる機会を得ることができた。
久しぶりの海の幸に感動し、鯛が入ってきた日には買い付けた油を使い鯛の天ぷらを作ると五位様も大層気に入り、更に俺を可愛がってくれるし、先輩方も雑務を色々するし、美味しい料理を色々知っていると何かと目をかけてくれるようになった。
冬が終わり、自分も自分の畑の管理をしなければならないと伝えると
「そうだったな! 佐助は農民だったな。すっかり失念していた。いやそれほどまで博識で農民というのももったいない。次男で跡を継げないのであるなら元服後は儂が織田家に売り込んでやろう」
と、就職先の斡旋までしてくれるくらい可愛がってくれている。
それに農作業が終わればまだまだ教えることは山程あるといつでも五位様の屋敷に出入り自由の許可も貰い、農繁期は週に1度、農業が落ち着いてきたら週に4度ほど通いで教えを請うようになるのだった。
【山科助綱の評価が上がった 教養がググンと上がった 知力がググンと上がった 武力が上がった 槍術を覚えた】