「私やっぱり先輩が好き!!!」 渚は唐突に叫んだ。
叫んですぐ、隣の部屋にいる妹のみきに聞かれていないかと恥ずかしくなった。
渚が恋する松田晴斗は、テニス部の1個上の高校3年で、もうすぐ卒業し地元の大学に行く。渚はテニス部のマネージャーとして晴斗のことを見ていた。
渚は中学時代テニス部だったが、中学3年の5月にダブルスでペアを組んでいる仲間と試合中接触した際に、足首を捻り靭帯損傷した。
中体連は思うよな結果が出せずにそのまま引退した。
テニスは好きだが、プレーをする気にはなれずマネージャーをやることにした。女子だと自分もプレー出来ていたらと、苦い思い出が蘇りそうなので男子テニス部のマネージャーになった。
2個上の夏の大会が終わるまでは雑用ばかりでろくにコートに近寄る機会がなかったが、引退をするとマネージャーの仕事をしつつもプレーを見れるようになった。その時、晴斗のサービスのフォームの綺麗さやコーナーをつく正確性に惹かれた。「綺麗だし、球に重みとスピードがあるな。」最初はプレーを見ているのが楽しかった。しかし、そのうちに晴斗自身を見ている自分に気がついていった。
しかし、好きだと気づいた時には、晴斗の隣には同い年の彼女の詩織がいた。
詩織はコンビニでバイトをしていて、晴斗は部活終わりにコンビニまで迎えに行き一緒に帰っていた。
練習が終わると急いで着替えて部室を出る晴斗。
晴斗の家とコンビニは逆方向だが、詩織に会うために迎えに行っている。
スマホの待ち受けは、彼女との写真を何枚も組み合わせてアプリで晴斗が作ったもので、ラケット入れには詩織の「S」のチャームがついている。
ある日、予報では晴れだったが雨になった日は自分の合羽を詩織に渡し、晴斗はジャージを頭に巻き急いで自転車を漕いで帰っていった。
詩織は、誰とでも仲良くなる社交的なタイプで仲良さげに他の男の人と帰ってるところを見たことがある。仲のいい男友達という雰囲気で、晴斗にも気づき手を振っていたので、やましい関係ではないのだろうが、胸がざわつく。
『先輩、嫌な気分にならないのかな?遠くからしか見ていないから分からないけれど、二人の関係を見ると先輩の方が好きそう。私が先輩の彼女だったらあんなことしないのに…』と渚は思っていた。
『でも、先輩と彼女の中を引き裂くことはしたくない。先輩が幸せならそれでいい。』と遠くから見るだけにしようと決めていた。
こうして2年以上、渚は晴斗に片思いをしている。
最初は緊張でろくに話せなかったが、部活終わりに近所のコンビニに寄り、帰ろうとすると晴斗とすれ違った。そして晴斗の家から通り道であることを知った。
詩織の家からは5分ほど遠回りになるのだが、コンビニを通って高校へ向かうと顔を合わせることが何度かあり、そのまま一緒に通学するのであった。渚は毎日タイミングが合わないか楽しみにしながら向かっていた。一緒に、と言っても信号を2つ渡ると同じ学校の人たちがいっぱいいて2人だけの時間は300mほどなのだが。300mで大した会話は出来ないが渚にとっては唯一の夢の時間だった。
夏の大会も終わり7月に部活を引退した晴斗。
毎日顔を合わせていたのに、移動教室の時にたまに廊下ですれ違う程度になってしまった。すれ違ったときは、声をかけてくれるがそれ以上の会話はない。
「いい雰囲気と感じる会話もないし脈はない。そもそも先輩には詩織先輩がいる…。」自分に何回も言い聞かせてきた言葉だった。
変わったのは12月、晴斗が地元の大学への推薦が決まってからだった。
顧問に合格発表の報告をし、練習中に来てくれたのだった。
大学でもテニスをやる予定のようで制服だったがプレーをするように後輩たちから言われ、渋々付き合った。
久々にラケットを握る晴斗は、少し反応が遅くなり思うようにプレーが出来ていない。そのことが悔しかったのか練習に頻繁に顔を出すようになった。
渚は会う機会が増えて嬉しかった。
終業式の日も晴斗は練習にやってきた。
そして、いつも以上に急いで着替えをし膨れたカバンで自転車を漕いで帰っていく。カバンを見て、渚は悟った。
『…今日は、終業式だけではない、クリスマスイブだった。』と。
彼女とはまだ続いてるのか…、先輩が幸せならと言いつつ、心の奥でチクッと針がささったような気分だ。
家に帰り、ベットで横になりながらスマホをいじっていたがSNSではクリスマスの投稿ばかりだ。「私も、好きな人とクリスマス過ごしてみたいな。晴斗先輩と過ごせたら幸せだろうな…」
晴斗と過ごすクリスマスを想像しようとしたが、デートをしたことがないのでうまく想像できない。『付き合っている人たちはどこに行くの?何して過ごすの?クリスマスって何をする日?高校生ってどちらかのお家で親も交えてご飯を食べるの?それともどこか別の場所に行くの?そもそもデートってなにーー?』
疑問が疑問を呼び、付き合うということ自体がよく分からなくなった。
でも、隣に晴斗がいて、眺めていたら視線に気づき微笑みながら目が合うところを想像したら自然と頬が緩みにやけた。
「私やっぱり先輩が好き!!!」渚は唐突に叫んだ。
そして、このまま終わりにすることは出来ない。先輩に伝えたい。と強く思った。
今この勢いだったら、言えるかもしれない。
しかし、今日はクリスマスイブ。一番空気が読めない日だ。先輩の幸せを願うどころか、ぶち壊すことにもなりかねない。渚は自分で自分を落ち着かせた。
『今日は言わない。では、いつ言おうか?』イブの日から告白する日ばかりを考えていた。2年もひっそりと片思いをしていたのに思いを告げると決めたら行動を移す日ばかり考えていた。
退職代行など、社員が突然辞めたというのがSNSで流れてくるが、この人たちも秘めた思いが爆発したのかな。と勝手に仲間意識を持った。
もう少しで卒業になってしまう。
でも、今後も放課後練習に来るかもしれないから気まずくなるのは避けたい。
卒業式だと目立ってしまう。タイミングが合うかも分からないし、詩織先輩が気づいてしまうかも。そして、振られるところを誰かに見られたら、私は告白に失敗した人としてもう1年学校にいなくてはいけない。。。
目立つことと気まずくなるのは避けたかったので、ほかにいい日はないか考えているとある日が浮かんだ。
1月31日にしよう。この日を境に3月1日の卒業式まで3年生は登校しない。
気まずくなることはないし、卒業式も会えるか分からない。
1月26日。晴斗が今日も部活に顔を出した。
他の部員が練習し、晴斗が給水をしている隙を狙って渚は勇気を振り絞って話しかけた。
「先輩、もうすぐ卒業ですね。実家から通うんですか?」
「そう、その予定。引っ越しとかなくて暇だから免許取ろうかと思って。」
「いいですね!私、朝たまに先輩に会うの楽しみにしていたのになくなるのつまらないです」
「つまらないって…言い方、別にない?w」
「1月31日、先輩最後ですよね?いつもの時間に会いたいです」
「んーじゃ、寝坊しないように気を付けるわ」
渚は、すでに告白したような気分になっていた。
平然を装ったが胸がどきどきして止まらない。
そして、今日は1月31日朝。
私はフラれるために先輩に会いに行く。
卒業間近で顔を合わす機会もなくなる。
冬の朝、フラれて泣いても怖くない、きっとコートのフードが隠してくれる
冬の朝、フラれても寂しくない、吐息がマフラーからぬるい熱に変えてくれる
冬の朝、フラれるのがわかって伝える、初めての告白、勝負の300メートル
冬の朝、ごめんと言われるのが怖くて逃げてる、『彼女想いな先輩が好き』