目次
ブックマーク
応援する
1
コメント
シェア
通報
夫婦の片づけ
夫婦の片づけ
中道 舞夜
現実世界現代ドラマ
2025年01月11日
公開日
1.4万字
連載中
「片付け」…それは、物を整理整頓したり捨てることだけではない。
5組の夫婦が、片づけを通してそれぞれの新しい形を見出します。
1話完結型の短編集。

1.夫と片付け
2.夫を片付け
3.夫が片付け
4.夫も片付け
5.夫の片づけ

第1話 夫と片付け

テーブルに置かれた未開封の封筒の山と広告、ソファにかけられている上着、使わないのに取ってあり息苦しそうな引き出し、何個もストックしてあるケチャップ、その光景を見て僕はため息をつきながら、片付けていく。


結婚して5年、この光景はもはや日常だった。妻の亜紀は、片付けが苦手だ。いや、苦手というレベルを超えているかもしれない。


「またこれか…」


心の声が漏れる。別に、亜紀を責めているわけではない。亜紀は、明るく、優しく、朗らかで大きな心で優しく包み込む太陽みたいな人だ。ただ、長所と短所は表裏一体で朗らかで大きな視点を持つ分、細かいことは気にしないところがあり整理整頓や掃除は苦手だった。


結婚前は、それほど気にならなかった。デートの時、彼女の部屋の物が多いのは「物を大事にする性格」と好意的に思っていた。

しかし、結婚してから「物を大事にしている」のではなくただ単に捨てられないだけだと気がつく。


結婚当初は、僕も優しく注意していた。「もう少し片付けた方が気持ちいいよ」「ここ、片付けておこうか?」などと、穏やかに提案していた。しかし、彼女はいつも「後でやるから」「私はこのままでも平気だけど?」と言い、結局何もしない。


何度か繰り返すうちに、僕も疲れてしまった。彼女に言っても無駄だと悟り、いつの間にか僕が全て片付けるようになった。


そこから、少しずつ夫婦関係にもズレが生じ、食事がすんだらすぐに寝室に籠るようになり、ろく会話をしなくなってしまった。


そんなある日、僕が片づけをしていると紗枝が真剣な顔つきで言った。

「あのね、こうちゃん。話があるんだけど…」

僕は、聞こえないふりをして書類の束を片付けていく。


「私、片付けが出来るようになりたいと思っているの…。でも、何度か頑張ってみたけど、どうしても続かなくて…。どうやったら片付いた状態が保てるか分からないの」

亜紀は、本当に悩んでいる。初めての告白に言葉が出なかった。

「…そうだったんだ…。」

「それでね…こうちゃん、片づけのコツを教えてもらえないかな?」

亜紀が変わろうとしている。僕は、彼女の真剣な表情を見て、彼女の気持ちに応えたいと思った。

「…分かった。やってみようか」


まず、僕は、片づけの基本を教えた。

「物の定位置を決める」「見たらすぐに保管が必要か不要か判断する」「床に物を置かない」判断が苦手ということが分かったので、しばらくのうちは僕も判断する側に回った


「このチラシ、住宅販売だけど家は買わないから不要じゃないかな?」

「クーポンも期限が切れているから使わないよね。」

そんなことを話していくうちに、彼女は身の回りのものは少しずつ捨てていけるようになった。そして片づけを教えることをきっかけに夫婦の会話は以前より増えていった。


「今日は、ポストに入っていたチラシが介護用品のレンタルで自分たちには関係ないから目を通してそのまま捨てたの。」

嬉しそうに報告する亜紀を見て、僕も嬉しくなった。まるで、子供の成長を見守る親のような気分だ。


ある日、亜紀が言った。

「私、こうちゃんに教えてもらわなかったら一生片づけは苦手なままだった気がする…。ありがとう。」

「亜紀は変わったと思うよ。頑張っているし、部屋の中も最初に比べたら見違えるように綺麗になったよ。」

「私、部屋がきれいになって嬉しいけれど、一番嬉しいのは片づけを通して、またこうちゃんとの会話が増えたことなんだ。」


亜紀の言葉に、僕は胸が熱くなった。そうだ、以前の亜紀はこうして感謝の気持ちを忘れず言葉にして人の心を明るくするところだった。素直に感謝の意を伝え、いいところは素敵と言う純粋でまっすぐな所に、僕は惹かれ、また困った時は助けたいと思ったのだ。



それからも亜紀は片づけに目覚め、目に見える場所だけでなく引き出しの中やクローゼットなど範囲を拡大させていった。そして、不要になったカラーボックスや衣装ケースがいくつも出てきたので、週末に二人で粗大ごみとして捨てに行った。


その夜、久しぶりに寝室ではなくリビングでくつろいでいると、亜紀が僕の隣に座りそっと寄りかかってきた。こうして隣同士で座るのはいつぶりだろうか…。

「ねえ?片付けを教えてくれてありがとう。こうちゃんとこうして同じ部屋で過ごせることが嬉しい。」


僕は、胸が苦しくなり、亜紀の髪を優しく撫でた。

悪いところにばかり目が行き、彼女の本来の良さを見れていなかった。僕は、片づけが出来ていないことに嫌気がさし寝室にこもっていた自分を恥じた。きっと亜紀は、一人孤独な思いをし悩んでいたのだろう。


「僕の方こそありがとう。僕自身も、大切なことをたくさん学んだよ」

僕たちは、顔を見合わせ、微笑んだ。僕がしたことは、部屋の片付け方を教えることではなかった。夫婦の冷え切った関係を「片付けた」のだ。







この作品に、最初のコメントを書いてみませんか?