「友梨佳さんそのバック素敵ですね、プレゼントですか?」
「そう、この前買い物行ったら買ってくれたの」
「可愛くて素敵ですね 」
「え……本当? 私、あんまり気に入ってないの。でもプレゼントだから使わないと悪いかなと思って……。」
その言葉に素敵と褒めていた後輩は一瞬顔が引き攣った
「そ……そうですか?でも私は好きですよ。」
気に入っていないと言いつつも、大学生から20代前半の女性に人気のブランドの新作バッグを自慢気に見せつけているのは、社内で1,2を争う美人と言われている友梨佳だ。
パッチリした二重にスッと通った高い鼻、口角は上がり、艶があり天使の輪が出るミディアムヘアとパステルピンクのネイル。元々の整った容姿と努力のおかげで、サロンのカットモデルを頼まれたりアイドルグループにスカウトされたこともあるらしい。
(きっとプレゼントの相手は社内だな……)
真希はこちらに話が振られないよう視線を外しながら静かに思った。
友梨佳は、持ち前の容姿で周りから注目されるが故に期待に応えるための努力を怠らない。
しかし女性同士の場では『Sさんはご飯を奢ってくれるだけで何も買ってくれない。』『Yさんにランチ誘われたけど興味なくて困っている』という類いの話も堂々としている。
男性の前では、すごい、素敵など褒め称えるがいない場では毒舌だった。
好みに合わない人とは食事には行くがそれ以上の進展はなし、そして出かけた際にバッグなどをねだり、反応次第で今後の対応を決めている。
本人曰く、相手は私と食事に行けて嬉しい、私は欲しいものが入って嬉しいのでwin-winの関係だそうだ。
「顔がいいかお金ある人じゃなきゃ無理。早いうちなら両方期待できる人もいるから早く見つけなくちゃ。そのために女は選ばれる努力が必要だよね。世の中ね、顔かお金かなのよ」
仲のいい女性社員たちに教訓のように言う友梨佳。
奢られて当然、プレゼントも気に入っていないと平然と言うことに違和感を感じ、真希は距離をとっている。
そんな真希だったが、
「真希ちゃんって男の人に興味ないの?彼氏の話とか出てこないけど、真希ちゃんもっとメイクや服装を頑張ればきっと素敵になると思う。」
プライベートで全く交流がない友梨佳からおっとりとした口調で言われた時は唖然とした。社歴では友梨佳の方が長いため先輩に当たるが、どうも好きになれなかった。
(この人とは出来るだけ関わらないようにしよう……。)
しかし、話はそれだけではなかった。
「あと、今度の金曜日の夜空いている?会社の飲み会なんだけど私、幹事で。大丈夫?」
「……はあ。大丈夫です。」
「良かった。お店決まったら連絡するね」
幹事など面倒なことをやるようなタイプではなかったので、珍しいこともあるものだと思ったが木曜日の朝にメールが届き納得した。
飲み会は飲み会でも、会社の人もいる合コンだったのだ。
相手は大手製薬会社のT社と書かれている。メンバーを見ると普段友梨佳が親しい人は居ない。なるほど……。引き立て役に使われたわけか……。
そして、断られるのを避けるため前日のキャンセルが効かない段階で連絡してきたのも面白くなかった。
(うわーーー。やられた!!!相手はT社か……。)
真希は戻れることなら、予定を聞かれた場面に行き断りたかった。
当日、友梨佳はいつも以上に気合の入ったメイクと服でやってきた。
ボディクリームを塗っているのか肌はキラキラと光り、すれ違うたびに甘い香りが漂う。
「友梨佳ちゃん、可愛いねー。彼氏いないの?」
「本当だよねー目を引く美人って友梨佳ちゃんのことだと思う」
「そんなことないです。今、彼氏いなくて」
T社の男性陣は合流してすぐに、今日の対象は友梨佳のみだと思い積極的に話しかけていた。そして、まんざらでもない笑顔で嬉しそうにする友梨佳。
「高橋さん、おかわり頼みますか?メニューどうぞ」
今日来た中で一番若い高橋という男にメニュー表を差し出す。その後も、ニコニコして他の人の様子も伺うが一番最初に声をかけるのは高橋だった。
(今日の狙いは、高橋さんだな……)
真希は一番隅の席を確保し観察をしていた。
高橋は、先輩たちが友梨佳と話せるよう配慮しているのかお礼など最低限の会話だけにしてあとに笑って静かにしていた。そんな様子に友梨佳は高橋にも話題をふる。
「高橋さんはどうですか?」
「友梨佳ちゃん、高橋にも気を遣って話に入れるようにしてくれたの?気が利くねー」
「メニュー表もすぐにみんなに差し出してくれるし女子力高いよね」
「そんなことないです!でも嬉しい。ありがとうございます」
満面の笑みで返す友梨佳に男性陣も頬が緩む。
友梨佳が狙っている高橋と一瞬だけ目があったが、下手に関わって友梨佳に目を付けられたくないので隣にいる同僚との会話を楽しんだ。
結局、友梨佳とT社の交流会となった飲み会は盛り上がるはずもなく女性陣はその場で帰って行った。友梨佳は、次の店に行こうと誘われている。
「高橋さんは行かれますか?」
「あ、僕は遠慮しようかな……」
「ええー。高橋さんがいないとつまらないです。もっとお話したいな」
高橋の近くに行き上目遣いで見つめる。
遠巻きに見ていたが美人がやると画になり、そんな潤んだ瞳と唇で見られたら男性が落ちるのも分かるな。と思いながら真希はその場を後にした。
(うーーん。なんか飲み足りない。もう一杯飲んでから帰ろう。)
スマホがブルブルと小さく震えているが、歩きながら見るのは面倒なので先に店に入ることにした。
「ジントニックください」
バーカウンターで静かに飲んでいると、店先の玄関扉が開きベルが鳴った。
スーツ姿の男性は、真希の隣に腰を掛ける。
「ふーーー、長かった。やっと撒いてきた。」
「おつかれさま、あの瞳に落ちないなんてすごいね。」
「ん?自分が美人って自覚しすぎている人に興味ないんだよね。付き合ったら大変そう。」
「あながち間違えではないと思う。」
先程まで、友梨佳にいい寄られていた高橋がなんてことはないという顔で言う。
「それよりさ、来週のFOMCどう見ている?」
「んーー。私はそれよりも雇用統計の方に注目している。予想と乖離大きかったら値動き荒らそうだし、長いヒゲで一瞬で動くかなって。」
「確かに。そこも怪しいよな。ボリバンも開きそうなんだよ」
高橋と真希は投資仲間でもあり、将来独立を視野に起業の準備をすすめていた。
商工会議所の開く起業相談会に足を運んだが、自分よりひとまわり……いや、ふたまわりほど年上の人ばかりでたじろんでいた中でお互いを見つけ、急速に親しくなった。恋愛感情ではなく、同志を見つけた感覚だった。
その後も、セミナーだけでなく個人的に資金調達や事業計画書の記載内容など相談しあっていた。独立の話や資金面の話をしているうちに、お互い投資をやっていること、参考にしているインジケーターは違うが、同じテクニカル手法だったので重要指標が近づくと情報交換していた。
ジントニックを飲みながらチャートを確認する。
友梨佳先輩、 女性で年収2000万円以上の割合って何%か知っていますか?
0.2%です。しかし、私は0.2%の人よりもお金を稼いでいます。
給与所得の場合だと所得税と住民税で720万円控除されて手取りは1,280万円ですが、私の場合は20%で1,800万円。年収2000万円の人たちよりも手元に残るお金は多いです。
テキサス大学教授の研究で美人は生涯3000万円得をするという研究結果がありましたが、私は1年半足らずで帳消しにします。
友梨佳先輩はプレゼントしてもらったことを自慢していますが、私は欲しいものは自分で手に入れます 。
男性もそう。先輩が顔で世の中を渡り歩くなら、私は知識とお金で経営者や高学歴の人と知り合います。 あとね…… 顔とお金は反比例の関係で、美貌は年を取るにつれて劣化しますが知識は増えるんですよ。私はどんどん価値をあげていきます。
『世の中ね、顔かお金かなのよ』あなたが言った言葉、そっくりそのままお返しします。
だって……逆さにしても『よのなかねかおかおかねかなのよ』
グラスにたっぷりついて流れない水滴が、まるで友梨佳の冷や汗のように見えた。真希は微笑し、おしぼりで綺麗に拭き取った後に飲み干した。