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epi.3-2 待つ女

振り向くと髪はツーブロックで肌の色は白く細身な男性が立っていた。


身長は高くないが、綺麗にセットされた髪と体型に合った細身のパンツがスタイルの良さと洗練さを醸し出している。靴やバッグ・腕時計もさりげなくブランドだったのも見逃さなかった。






瑛太は志保と雄と同じバスケサークルだそうで付き合いが長い。


私の2個上。雄とは4つ離れているため、雄の後輩にあたる。




学生時代ほどではないが、社会人になっても運動部さながらの上下関係は存在するようで


瑛太は雄に敬語を使い自分のドリンクよりも前に雄のドリンクを気にし注文していた。


そして瑛太の方が年上だが、雄先輩の彼女の彼女として志保へも雄と同じように接していた。礼儀正しい気配りの出来る人なんだな。と言うのが瑛太の第一印象だった。






瑛太は市内でも有名な高級住宅街と呼ばれる地域に住んでいた。実家で両親と兄の4人暮らし。近所に祖父母の家もあるそうで、近隣にはアパートも数棟所有しているそうだ。




「瑛太、俺たち今度結婚するから友人割で家賃安くしてよー」と冗談で雄が言う。


「あのアパートは親の所有で管理会社に全て委託していて僕は関与していないので無理です」とスマートに断る。このような手の依頼は今まで何度も受けていたのだろうな。と思いながら、あすかはピーチウーロンを飲んだ。




「あすか、もう終わりますけどお代わり頼みますか?」


氷で薄まって色が消えかけているグラスを見て瑛太がメニューを手渡してくれた。


「あ、ありがとうございます。えっと…なににしよう。んーカシスオレンジかな」


あまり飲むことがないので何にするか迷っていると瑛太が優しく微笑み


「僕、あまりお酒飲めないんです。だから基本、飲み会では運転手で。会社の席では、ウーロン茶をウーロンハイっていって凌いでいます。」




あすかは、必死でウーロンハイと言い張る瑛太を想像して「ふふっ」と小さく笑った。


そんなあすかを見て、瑛太もふっと頬を緩めた。






志保と雄が漫才コンビのようにテンポのいい息の合った会話を続けるので、終始聞き入った板。志保がツッコミで雄がボケだ。






瑛太に聞かれ、二人はまたプロポーズの話をした。


「渡す前にリビングのテーブルの上に置きっぱなしで自分で開けたのー。パカッは?パカッ?自分で開けるのかよ!!!と思っちゃった」


先ほどよりお酒が進みほろ酔い気味の志保が言う。




「では、雄さんもう一度ここでプロポーズやり直しましょう」瑛太が振る。


すると、困ったなという顔をしながらも指輪の箱を開けるようなジェスチャーをして


「えーーー、では志保さんKSK…」


「…HI(はい)。ってDAIGOか!w」


「ふふふっ、志保ちゃんは北川景子ってイメージじゃないよね」と雄が茶かすので「どの口が言うねん」と志保からツッコミが入った。






理想通りのプロポーズとは違っても、ネタにしてやり取りも楽しんでいる志保たちが羨ましく微笑ましかった。そして志保と雄と瑛太の普段目にすることのないやり取りに私もこの輪の中に入りたいな、と思うようになった。






一軒目が終わり、カラオケに行くことになった。雄は大学時代にギターを少しやっていたそうで歌が上手いと志保から聞いていた。志保もアイドルグループの推し活をやっていて、そのグループの曲は上手い。




あすかはカラオケが苦手で職場では逃げるように帰っていたが、今日は友人同士なのと、まだみんなと一緒にいたいと思い行くことにした。


雄や志保が慣れた様子で歌っていく、次は瑛太の番だ。瑛太は最新のランキングから上位に入った曲を歌う。雄を凌ぐ美声で驚いた。




あすかは何をいれていいか分からず、デンモクに集中していたが瑛太の美声に手を止め、雄や志保に先に歌ってもらうように頼んだ。


歌い終わったあとに声をかけると、「母がピアノ教室を開いていて小さいころからやっていたんです。」と教えてくれた。




高級住宅街に住み母親はピアノ教室を営み英才教育を受けたお坊ちゃま。


瑛太の印象はこの日、再び変わった。




カラオケを後に解散となった。志保は雄の家に泊まるらしい。


あすかも帰ろうと駅へ向かおうとすると、瑛太が話しかけてきた。


「あの、今日車で来たから家まで送るよ」その言葉に志保と雄は顔を見合わせてにやけている。「あすか、そうしなよ。」「あすかちゃん、大丈夫。瑛太が変なことしてきたら俺が徹底的に倒すから(笑)」


「しませんよ…!!じゃ、行こう」




みんなの言葉に甘えて送ってもらうことにした。


瑛太のことはまだよく知らないが悪い人ではなさそう。そして、裕福な家柄からうまれる心の余裕なのか瑛太の落ち着いたゆとりある雰囲気が今まで出会ったことのないタイプで心を惹かれた。




車の中で二人きりになり少し緊張をした。


午前零時の交差点、車走らせる瑛太の横顔を時折のぞく。…嫌いじゃない。


むしろもう少し知りたいと気になっている。




見過ぎるのはよくないと思い、視線を窓の外に向ける。


街灯がキラキラと光っている。「綺麗…」と呟くと


「夜景は好き?どこか行ったりする?」


「好き、家の近くに地元民だけが知っている夜景スポットがあってたまに行くんだ」


「そうなんだ、…今度教えてほしいな」




…瑛太を誘う口実に話をしたわけではなかったが、一緒に観たいと思った。


「あっ、秘密にしておきたいなら無理とは言わないからね」瑛太が慌てて訂正をする。


「あ、そういうわけじゃなくて…今日は雲が多いから全体が見えないかなと思って」


あすかも必死に訂正をした。




「じゃあ、今度日を改めて連れてってくれる?」


「あ、、はい。」


「ありがとう、楽しみにしてる。また連絡するね」




こうして2回目の約束を取り付けた。しかも今度はきっと2人だ。


あすかは、もしかしたら始まるかもしれない恋の訪れに胸が高鳴っていた。



















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