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epi.3-1 待つ女

「またか…」


スマホの画面を睨みつける。待ち合わせ時間の5分前。瑛太から連絡は一切ない。これが日常だった。待ち合わせに時間通りに来たことは数えるほどしかなく、いつも1時間以上は遅刻してくる。それも、寝坊が理由だ。


休日は二度寝の常習犯で、起きたら連絡しようと思っていたのに気づいたら寝てしまっていた。というのがいつもの言い訳だった。


「寝てるんだから仕方ない」

最初のうちはそう自分に言い聞かせていたが、遅刻が当たり前になってくると胸の奥に黒い靄のようなものが沸々と広がるのを止められない。



カフェの窓から外を眺める。楽しそうに手を繋いで歩いているカップルを見るたびに、胸が締め付けられる。手を繋ぐ相手はいるのに、今ここにはいない。私はぬるくなってしまったミルクティーを喉を潤す程度にちびちびと飲みながら、いつ来るかわからない彼を、ただ待っている。




瑛太は友人カップルの紹介で知り合った。元カレと別れたばかりで、誰かいい人がいたら紹介して。と話をするとすぐに瑛太の名前が出てきた。



友達と旅行に行った時にデカ盛りグルメを頼み、SNSに写真をUPしたが、その投稿を友人の志保の彼氏の雄が見て、その場にいた瑛太にも見せたらしい。そして瑛太はデカ盛りグルメではなく私に興味を持ってくれたようで、4人で会うことになった。



場所は駅からアクセスがよく、女子会で人気のある部屋の装飾にこだわったおしゃれな創作居酒屋だった。個室で部屋にはシャンデリアや革のソファーがありキラキラした箸置きなど写真を撮ってSNSにUPしたくなるようなものが部屋中に置かれている。



これは誰のチョイスなのか…。もしかしたら、女慣れしていて女子が喜ぶ店とか色々知っている人?と不安がよぎったが、志保のチョイスだと知り安心した。



急遽決まったため、瑛太は昼間予定があり少し遅れるとのことで志保と雄と3人で先に乾杯をした。


あすかはあまりお酒が飲めないが、乾杯からカクテルを頼むのは気が引けるので職場の飲み会ではビールを頼んでいた。そして一生懸命時間をかけて飲み干すのだった。

志保と雄はお酒が強くワインが好きだ。二人で休日は簡単なおつまみを作って家で飲んでいるらしい。しかし、あすかがお酒に強くないことも普段はカクテルや甘いお酒の方が好きなことを知っているため、こうして女子向けの可愛いお店にしてくれたようだ。

あすかは志保たちの優しさに感謝し、一杯目からピーチウーロンを頼んだ。

志保と雄は、学生時代バスケ部だった。雄の出身は千葉だが就職で引っ越してきた。職場以外でも知り合いが欲しいと、社会人のバスケサークルに入りそこで志保と知り合ったそうだ。


志保は中学の同級生で、学生時代はバスケ部のキャプテンをしていた。いつでも明るく場を盛り上げてくれるタイプで、学習体験の山登りやハズレと呼ばれるみんなが嫌がる場所の掃除当番になった時もポジティブな言葉で自然とモチベーションをあげ、遅れている人がいたら声をかけて気遣う面倒見の良さもありリーダーにぴったりだった。


誰も知り合いのいない見知らぬ土地で戸惑っている雄も、そんな志保に惹かれていったようでおいしい店を知りたいから教えてほしいと連絡をし、その後頻繁に会うようになり交際に発展したらしい。



付き合って3年以上の仲で先日、雄がプロポーズをして今は婚約中だ。

その日も家でワインを飲むために買い物をしてから雄の部屋に向かうとリビングのテーブルに指輪の箱が置いてあり、開いたところ雄から「結婚しよう」と言われたそうだ。


「ベタだけど、どこかのホテルとかで食事中に指輪の箱開いて結婚してくださいとか言われてみたかったんだよー。だけど、テーブルに箱置きっぱなしなの、だから自分で開けちゃったんだよー」


少し酔った口調で志保が拗ねたように話すが、顔からは幸せいっぱいで笑みがこぼれている。そんな志保を雄も優しい眼差しで見守る。


この2人が一緒になってくれて本当に嬉しい。この先も幸せになってほしいな。志保の幸せそうな表情を見てあすかも温かく幸せな気分になった。



しばらくすると、「遅れてすみません…。」瑛太が個室の扉を開けた。


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