□ 青白い粒子
神夜蒼麻の目の前には踏切がある。
周囲は人気がなくなり夕暮れから、日が落ちる直前で、オレンジ色の太陽の光が沈み、踏切信号や踏切棒などが、ありとあらゆる物体に当たり光を反射させるそんな時間帯。
神夜が立ち止まっている場所は、踏切戦の前で、踏切棒の前。
目の前の踏切棒を俯瞰し、前の男性の肩に触れる神夜。
「⁉??」
神夜は手に違和感を覚える。
―――……手の感覚が……鈍い……―――。
地面と電車の間に位置する鉄製の線路。
正方形の木目が印象的な土台の木盤に支えられている。
この電車が走る振動により、手の感覚が鈍くなっているといったところか?……。
いや、理由はまた別にある……。
これを鈍いと言っていいものか疑問に思うほど、感覚が無くなっている事に気づく神夜。
それとも、踏切付近の注意喚起を示す機械の音。これが……手の鈍さの原因だろうか……。
いや……、室外の低気温の肌寒い季節の影響で、手が悴み……感覚がないのだろうか……。
それも違うように感じる。
神夜は、原因を考えているように一見見えたが、現実逃避をしているかのように、答えを出さないようにしているかのようだった。
再び思考する神夜。
季節は冬から春に移り変わった事で、少し温かい風が空を自由に行き交う事を知っていた神夜はその可能性も低いと判断する……。
そう、手が悴んでいるということでもないのだ。
いくら考えても原因は思いつかない、ただ1つを覗いては……。
そう……、実は……神夜は知っていた……。
だが、信じたくないが先行する思考。
その信じたくない現状の状況を受け入れるべく、自らの脳に司令を送る。
内容はこうだ。「考えろ」と、ただそれだけだ。なぜ、そんな簡単な事ができなかったのかと聞かれるとこう答えるだろう。
非日常だから、信じたくないと……。
だが、それを受け入れないと現状の説明ができない……。
なんせ、今、神夜の目の前にそそり立つ《信じたくない壁》の正体は、「非」が2つつくほどの非非日常だからである。
つまり、今まさに目の前で摩訶不思議な状態の真っ只中なのだ。
その事を自覚するのに数秒。
神夜の目の前にいるのは後ろ姿の玄芳暁斗という人物。
神夜の親友でもあり、同じ高校に通う同級生だ。
その、親友の肩から放たれているのは青白い蛍の光のような大きさの光。
その光は、綺麗でいながら無機質な冷たい光に感じられる。
自然と目線が青白い粒子のような光に導かれ、目線が吸い寄せられるのは暁斗の肩付近。
そう、神夜は目の焦点をその、謎めいた青白い粒子を確認すべく、暁斗の肩に目を向ける。
そして、触れている自分の左手をゆっくりと俯瞰した。
「⁉??」
神夜は驚きを隠せず、目を大きく広げながら自らの手と、暁斗の肩付近を凝視する。
そう、非非日常を目の辺りにしたのだ。
そこには、半透明になった左手の奥に暁斗の方がうっすら透けており、指先から肩にかけて、青い粒子になって居るではないか……。
その青白い粒子は徐々に指先から関節、関節から手の甲と、みるみるうちに消滅していき、消滅していく体の一部は青白い粒子に似変化し、蛍の光のようにゆらゆらと揺れ、ヘリウムガスが入った風船の様に「ふわりっ」と天高くに飛んでってしまう。
実は後々分かってきた事だが……、今まさに《現実世界》から《仮想世界》に飛ばされようとしている瞬間だったのだ。
その事を神夜が自覚するには仮想世界に飛ばされてからなのだが、現在の神夜には理解すらできずに、ありえない原因を受け入れられないまま思考し続けていた。
―――俺は……一体……どうなってしまっているんだ……―――。
―――自らの状態を鏡で見て確認したいが、こんな所に鏡なんてあるはずがない……―――。
だが、それに似て、代わりになりそうな反射する「もの」が2つあった。
1つ目の「物」は、注意喚起を鳴らす赤く点し終えた状態の黒いレンズに映る姿。
この踏切信号では、全体的に二人の人物の影から、青白い粒子が放たれていることが神夜の場所から確認できる。
ここで全体図のシルエットと今自分の置かれている状況が見て取れた。
そして、2つ目の「者」は、神夜と同じ制服を着た暁斗の瞳だ。
肩に触れたことで前にいる暁斗が振り向いたのだ。
瞳には神夜の姿が映る。
この時シルエットだけではなく、瞳に映る自分の顔がアップに見え、体が小さく写っていた。
どちらも、魚眼レンズの様な特殊な写り方をしている。
だが、みるみるうちに自分の体から、青白い粒子が放たれていること事を理解した神夜は頭が真っ白になる。
神夜は数秒の間、暁斗が青白い粒子を放ちこの場から消滅していく姿を眺めている……。
―――これは夢なのか……。
―――それとも、現実なのか?……。
そして、暁斗の消滅率が50%を下回る頃に、自分の番が回ってきた。
玄芳暁斗の肩に触れた事が原因だろう。
夢なのかと思うくらいに非非日常であり、青白い粒子が夕日をバックに上昇していくさまは幻想的で神秘的な光景として神夜の脳裏に焼き付く。
これは、紛れもなく現実であり、これから見る世界は紛れもなく現実に近い仮想世界に飛ばされることになる。
◇◇◇