穏やかな午後の学園で、悠（ゆう）は集中することができなかった。彼の心は謎めいた少女の姿に囚われていた。あの奇妙な戦いを目撃して以来、何か大切なものを見失ったような感覚に陥っていた。刀を手にしたその少女には、悠自身に直接繋がる何かが隠されていると確信していたが、その正体は掴めなかった。目を閉じるたび、霧の中に現れる彼女の顔が浮かび上がり、暗闇の怪物たちと戦う姿が脳裏を離れなかった。

気分を変えるために外に出た悠は、気がつくと学園の裏庭に足を運んでいた。昨夜、あの出来事が起きた場所だ。そこは静かな場所で、木々に囲まれ、小さな倉庫があり、スポーツ用品が保管されていた。涼しい風が吹き、木の葉がゆっくりと地面に落ちる中、悠は考え続けていた。

突然、金属音が静寂を破った。悠は反射的に顔を上げた。そこには、少女が立っていた。刀を手にし、彼女は歪んだ影の塊のような grotesque（グロテスク）な怪物と向き合っていた。それは高速で彼女に迫っていた。

少女は躊躇せずに動いた。信じられないほどの速さで怪物の攻撃をかわし、刀で一閃した。その一撃で怪物は空中で霧散し、跡形もなく消えてしまった。悠は息を呑みながら、その光景を黙って見つめていた。不思議な魅力と恐怖が入り混じった感情を覚えた。しかし、今回は前とは違った。彼女は消えなかった。代わりに、悠のいる方向をじっと見つめていた。

少女は悠のほうへ歩み寄った。彼女の目は何の躊躇もなく、まるで彼を待っていたかのようだった。

「見えるのね、今の私が。」

少女は口を開いた。その声は柔らかいが、どこか物悲しさを帯びていた。悠は驚きと困惑で固まり、彼女の言葉にどう反応すればいいのかわからなかった。

「誰なんだ…君は？どうして俺が君を見えるんだ？」

悠は後ずさりしながらも、震える声で問いかけた。

少女は悲しげに微笑み、刀をそっと地面に置いた。そして、静かに答えた。

「私は幽霊。この学園に魂を縛られている。生きている人たちが行く場所へ行くことができないの。ここでこうして戦い続ける運命なのよ。」

彼女の言葉に悠は信じられない思いで立ち尽くした。

「幽霊だって？じゃあ、なんで俺が君を見られるんだ？」

少女は一瞬黙り込んだ後、視線を悠に向けた。

「理由はわからない。でも、あなたは特別みたい。他の生きている人たちには私が見えないのに、あなたには見える。それが運命か、それとも別の理由があるのか、私にもわからない。」

悠は少女の話を聞きながら、その言葉が頭の中で響き続けた。目の前の現実が非現実的すぎて、何を信じればいいのかわからなかった。しかし、彼女が本物の幽霊であるという直感だけは否定できなかった。

「君は、なんであの怪物たちと戦っているんだ？あれは何なんだ？そして、君はどうしてこの場所にいるんだ？」

悠の質問に少女はため息をつき、遠くを見つめた。

「あなたが見たあの怪物たちは、悪しき心を持つ者たちの魂が堕ちた姿。死んでもその悪意は消えず、生きている人々の暗い思念と融合してあのような形になる。そして、無垢な魂を食らおうとするの。でも、それを止めるのが私の役目なの。…けれど、それだけじゃない。」

少女は一瞬言葉を切り、目を伏せた。

「私はここに縛られている。この戦いが終わるたびに、またこの場所に戻される。どんなに戦っても、この輪廻から抜け出すことはできない。」

「君の人生で何かあったのか？」

悠は躊躇いながらも尋ねた。

「私の前世は、侍だった。でも…絶望と復讐に取り憑かれてしまった。その結果、私の魂は清算されず、この地に囚われてしまった。」

少女は悠の目をまっすぐ見つめて答えた。

悠は心の中で複雑な感情が渦巻くのを感じた。彼女の運命に心を動かされながらも、どうしていいかわからなかった。

「君が安らげる方法を探すことはできないのか？俺に何かできることは？」

少女はその問いに少し驚いたような表情を見せたが、すぐに微笑み、静かに答えた。

「その答えを探すために私はここにいるのかもしれない。あなたが見えるのも、何か意味があるのかもね。」

悠は彼女の言

葉を聞きながら、強く決意した。この少女の苦しみを終わらせるために、何ができるかを探すことを。