悠(ゆう)は校舎の廊下で一人、時計を見上げていた。歴史の授業が終わり、また一日が過ぎ去った。
カナデは光(ひかり)からの誘いを受けて、女の子同士の特別な一日を過ごすことになっていた。光の笑顔の輝きと、その楽しみに満ちた表情は、カナデを納得させるには十分だった。しかし、悠はその喜びを共有できなかった。むしろ、どこか不満を感じていた。カナデほど表に出すわけではなかったが、悠も学校の日常の中に安らぎを見出しており、授業を欠席されるのはあまり好ましいことではなかった。
「どうして僕にこんなことを…?」悠は次の行き先に向かって廊下を歩きながら考えていた。
一日中一人でいるのは嫌だった。しかし、光に剣道部の見学を提案され、クラスメートからも誘われると、断ることはできなかった。
「来いよ、悠。剣道の稽古は面白いし、試合なんてまだ見たことないだろ?」とクラスメートが教室のドアの近くで声をかけてきた。
渋々ながら、悠は了承した。剣道の試合を観戦するのは悪くないと考えたからだ。それでも、カナデが自分を置いて楽しんでいることに少し嫉妬しつつ、あまり深く考えないようにした。
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悠が剣道部に到着すると、そこは彼にとってほとんど未知の場所だった。空気は厳粛な雰囲気に包まれ、竹刀がぶつかる音と気合の声が響いていた。部員たちは真剣に稽古に励んでおり、その奥では試合用のスペースが用意されていた。そこで、クラスメートが他の部員と試合の準備をしていた。
悠は端に立ち、クラスメートと対戦相手の試合を観戦していた。どちらも技量は高かったが、その試合が彼の興味を完全に引くことはなかった。代わりに、別の何かが彼の目を奪った。それは道場の隅に立つ影のような存在だった。
若い女性だった。腰に日本刀を差し、試合をじっと見つめている。彼女の視線は鋭く、深く、まるで全ての動きを的確に評価しているかのようだった。
悠(考えながら):
「誰だ、あの人は…?」
悠は彼女を見た記憶がなく、不意にその視線にさらされていることに居心地の悪さを感じた。彼女の顔は真剣で、どこか冷たい印象を与えたが、同時にどこか懐かしいような気もした。思わず、悠はぎこちなく手を挙げて挨拶を試みた。彼女は驚いたように一瞬目を見開き、そして興味深そうに彼を見返した。しかし、一言も発さないまま、彼女はさっと道場を後にした。
悠(考えながら):
「あの子、誰なんだ…?」
不思議な不安感が彼を包み、背筋にかすかな寒気が走った。その衝動に駆られ、悠は無意識に彼女を追いかけた。剣道部の出口へと急ぎ、何をしているのか深く考えることもなくその後を追った。
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校庭に出た悠は、あたりを見渡しながら彼女の姿を探した。木々や茂みの間を進んでいくと、その先に彼女を見つけた。彼女は戦闘態勢で立ち、手には日本刀を握っていた。そして、その正面には悠には理解できない奇妙な生物がいた。
その生物は、影と形の歪んだ混合体のような存在だった。煙のように揺らめき、不気味な顔が浮かび上がる。悠はその姿を見て胃の奥が締めつけられるような感覚を覚えたが、さらに驚いたのは彼女がその生物と対峙していたことだった。
悠(考えながら):
「何が起こってるんだ…?」
彼女はその生物を恐れていないようだった。むしろ、その姿勢は穏やかで、静かな集中力に満ちていた。生物が猛スピードで接近する中、彼女は刀を抜き放ち、一閃でそれを斬り裂いた。影のような生物は即座に消え去り、跡形もなくなった。
悠(考えながら):
「これは…一体…?」
その瞬間、彼女はゆっくりと悠の方に振り返った。二人の視線が交差する。言葉はなかったが、その目には何かを探るような鋭い光が宿っていた。その視線に悠は圧倒され、時が止まったように感じた。しかし彼女は一瞬の後、影の中へと身を隠し、校舎の影に消え去った。
ユウ(考えながら):
「あの女の子はいったい何者だ……?」
悠はその場で立ち尽くし、彼女の存在が自分の理解を超えた何か大
きなものの一部であるという感覚にとらわれていた。奇妙な余韻が心に残る中、彼はただ無言で空を見つめ続けていた。