SALVIAとのブリーフィングのため先入りしたSNOTは、キングベッドの端に腰掛け、煙草に火を点ける。
壁面の古びた時計は21時を示している。集合の時間はとうに過ぎていた。
「アイツが遅刻とは……珍しいな」
煙を吐き出しながら、独り言を呟く。
SALVIAもまた優秀なエージェントだ。少し集合に遅れているからといって、わざわざ安否確認をする必要はないだろうが……。
彼女は本日、新規クライアントとのミーティングだと言っていた。その帰りが遅いということはすなわち……。
面倒な依頼に巻き込まれそうな予兆を察し、彼は薄暗いスイートルームで一人頭を抱える。
「待たせたわね」
すると部屋のドアが開き、ようやくSALVIAがその姿を現わした。
「また面倒な依頼か?」
「まあ、そんなところね」
SALVIAは窮屈そうなビジネススーツを放り投げ、一番上まで閉めていたブラウスのボタンを第3まで外しながら答える。
「まあ覚悟はしているさ。ミーティングも随分手こずっていたみたいだからな」
「察しがよくて助かるわ」
入室時にはスーツをきっちり着こなしていたはず彼女。見るとすっかりラフに着崩した姿になり、SNOTの隣へと腰掛けた。
「まあ、家族間の問題はね……いろいろと面倒くさいのよ」
「俺たちには無縁の世界だな」
「あら、私たちだって立派な家族じゃない? 同じ
「冗談じゃない。思い出したくもないことを言わないでくれ」
「話が逸れたわね。でもその前に煙草の火、貰えるかしら?」
SALVIAの細くしなやかな左指には、いつの間にやらSNOTのものと同じ銘柄の煙草が挟まれていた。彼女はそれを口に咥えると、彼の煙草の火へと近づけた。
そしてSALVIAはふっと口から煙を吐くと、ゆっくりとその口を開いた。
「まずは大事な部分から伝えようかしらね。今回のターゲットは……赤坂京香よ」