就任からはや一週間が経過した新任教師の花岡柊太。彼は今、悩みの中にいた。
授業をさせれば「今までのどの先生よりも分かりやすい」と好評で、吹奏楽部の顧問をさせれば「ブービー賞常連のうちの部が、たった一週間でこんなに上手くなるなんて」と感心されるほどには、完璧に教師の職務をこなしてみせている彼。
そんな花岡、もといSNOTの悩みとは……ターゲットとの接点が取れないことだ。教師が特定の生徒に接近するには、何か理由付けをして何らかの個別指導の時間を取り付けるのが一番手っ取り早くスムーズなのだが……。ターゲットである黒野が優等生過ぎて、その口実がどうにも作れないのだ。
成績不振……な訳もなく、素行不良でもない。進路志望も既に決まっているし、人間関係も極めて良好だ。嗚呼、せめて排除した前任の受け持つ部活が、彼の所属するサッカー部だったなら……。生憎と
そういつまでも教師の真似事をしている場合ではないのだが……。このままでは
始めのうちこそさっさと終わらせてしまう気でいたSNOTだが、教師の真似事を続ければ続けるほど、たかが懇親会のメインディッシュの為がだけに殺されることになる、この哀れなターゲットをどうにか救ってやれないかと考えるようになってしまっていた。
SALVIAに聞かれたら「エージェント失格ね」と笑われるだろうか。放課後の教卓で頬杖を突き、何かいい策はないかと思案にふける。
「先生? 終わったよー? ほら!」
答案用紙を突き出されながらかけられた声により、今が中間考査の成績不振者への追々試の最中であることを思い出す。といっても対象者は、目の前で自信満々に答案用紙をぶら下げている彼女、白石だけだ。
「どれどれ、見せてみろ?」
纏まらない作戦を考えるのは後回しにして、目の前の職務に戻ろうとする花岡であったが、眼前の答案を見て思わず眉間に皺を寄せる。
「どう? 合格?」
キラキラとした期待の眼差しを込めて覗いてくる白石。その自信はいったいどこから来るんだか……。花岡はため息と共に答案を彼女へと突き返す。
「な訳あるか。お前なぁ……どうやったら追々試で13点なんざ取れるんだ……」
「そうは言ってもさぁ、同じ試験何度も受けるのやる気なくすんだよねー」
唇を尖らせてぶーたれる白石。
「そうか。ならいいことを教えてやろう。始めから赤点取らなければ一回で済むぞ」
「えー、それができたら苦労しないんだよー。あ、そうだ! じゃあ今度の期末考査で私が1位を取ったら、先生がデートしてくれるってのはどう? それならやる気でるかも」
眼前の赤点エースからの突拍子も無い提案に、唖然とする花岡。
「まぁ、やれるもんならやってみればいいんじゃないか……? それでこの
「え、本当? やったぁ!」
赤坂もこんな感じで何か餌にかかってくれれば楽なんだが……。関係ない魚だけが釣れ、SNOTの悩みは増していくばかりであった。