「ターゲットダウン。悪くないデートだったわよ、
ベッドに横たわる彼の冷たくなった頬を撫でながら、黒き蝶は優しく艶やかに笑みを浮かべる。先程まで彼女の頬を染めていたはずの桃の差し色はすっかり消えてなくなり、透き通る絹のような白く美しい肌に戻っていた。
「ようやくか。ここまで長かったな」
無線機から聞こえてくるのは男の声。隠す必要がなくなったホテルルームでは、堂々と他の男との通話が行われていた。
「いいじゃない。簡単に果ててしまわれてはつまらないもの」
「付き合わされるこっちの身にもなれ」
「そういう貴男だって随分とお楽しみだったと思うのだけれど?」
「気のせいだろう」
「ふふ。まあそういうことにしておいてあげるわ。なんにせよ、これでクライアントからのオーダーは完遂ね。報酬金の振り込みが待ち遠しいわ」
「『増税と女遊びのことしか頭にない無能悪徳二世財務大臣を排除してくれ』。たしか野党第一党である異茶文党の過激派議員からの依頼だったか?」
「そう。随分な言われようだけれど、まあ当然かしらね。顔ぐらいしか取り柄が思いつかないもの。まあそのおかげで私は愉しめたからいいのだけれど」
「その割には随分と物足りなそうな声に聞こえるがな」
「あら、どうしてそんな風に思うのかしら?」
さらりと流れるような金髪を指先で巻きながら、無線機越しの彼へと意地悪く笑ってみせる。
「ふん。お前がキスまでで満足したことなんて、ただの一度でもあったか?」
「ならこの後どうして欲しいか。言わなくても分かるわよね?」
「着くまでに死体はなんとかしておけよ」
「いいのかしら? 見せつけながらの方が興奮するんじゃない?」
「生憎お前と違ってそんな異常性癖は持ち合わせていなくてな」
「あらそう。残念ね。まあいいわ。最後に一つだけ伝えておくわね。途中までずっと彼に身を委ねていたせいかしら? 今日はなんだかめちゃくちゃにして欲しい、そんな気分よ。待ってるわね。”SNOT”」
男からの返事はなく、通信はここで切れた。
***
女の