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TARGET2:政界のプリンス(前編)

 揺らめくネオンが危険な香りをほのめかせる夜の街の一角。


 すでに手配済みのホテルでさっとチェックインを済ませ、室内に堂々と鎮座するラグジュアリーなキングスベッドへと本日の釣果を横たわらせる。


 社交パーティ中に不慮の死を迎えた愛人。その代わりを探しに行きつけのクラブへと言ってみたのだが、思わぬ上玉を掴むことに成功した。アイツもいい女ではあったが、流石に飽きがきていたころだ。アイツには悪いが、ちょうどいい機会だったのかもしれない。


 改めて今夜の晩餐を上から下までなめ回すように吟味する。闇に紛れる黒蝶のように優雅で妖艶な黒のドレス。その開いた胸元では、白く透き通った柔肌が酒によってほんのり桃色に染まっている。


 まな板の上の鯉と化した新しい愛玩人形。その文字通りドールのような綺麗な髪を右手指で優しくかき分けてやると、官能的なスウィートローズの香りがふんわりと漂い、それが気分をより一層昂ぶらせる。


 そのまま左の手を開いた胸元の隙間から滑り込ませ、その豊満な双丘をまさぐり撫でる。そのまま焦らすように恥部を刺激してやると、情けない嬌声を上げて反り返ったのち、求めるような媚びた目線と共に、その細い両の腕を首筋へと絡めてきた。


 眼前で痴態を晒している閨の相手からは、第一印象での凜とした美人の面影は最早微塵も感じられない。すっかり蕩けきったような甘えた表情で見つめてくる彼女のその華奢な顎に右手を添えてそっと持ち上げ、今にも涎が垂らさんばかりの半開きの唇をお望み通りに塞いでやる。


 涎まみれの舌同士が絡み合い、いやらしく甘美な音を奏でる。すると今までに感じたことのないような感覚が理性へと直接襲いかかってきた。今までに閨を共にした女の数なんて覚えていない程だが、それでもこんなに蕩けるような感覚に陥るキスは始めてだ。理性を失った獣の如く、貪るように舌を絡ませることしか考えられなる。


 脳が呼吸することを思い出したかように時折漏れる吐息と嬌声。しかしその快楽が誘う引力に抗うことなどできるはずもなく、彼は彼女の舌にしゃぶりつき、その唾液をすするだけの婬獣と成り果てていた。


 意識が快楽の海に沈んでいくことにさえも気づかないふりをし、トリップへと至る最期のその時まで、彼は眼前の甘い罠を享受し尽くすことを選んだのであった。

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