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第14話 避けられない発情と抗えない快楽

 車は木漏れ日に包まれた静かなロッジに入った。

 中は和洋折衷型の貴賓室のような内装で、大きな窓ガラス越しに広い庭を見渡せるようになっていた。リビングを通り抜け、明るい陽光を浴びる寝室に入った南月は、熱がこもった目で天黒を見上げていた。

「すまない。発情の対処法はいくつかあるが……この方法を取らせてくれ」

 どんな方法? と尋ねる必要はなかった。

 広いベッドの上で、体が沈み込むクッションに身を委ねた南月は、自分の肌が露わになっていくのを見詰めていた。ギシッとベッドが揺れ、天黒が覆い被さってくる。

「ぁ……」

 髪に口付けされた。その唇がゆっくりと滑り、額やこめかみに当てられる。目元をチュッと吸われて南月はふふふ、と笑った。

「かわいい……南月」

 一糸纏わぬ姿を天黒に晒す。

 胸が高鳴った。

「奇麗な肌だ。艶やかで、滑らかで、美しい」

「あまり……見ないでください」

「全てを見せて欲しい」

「恥ずかしい……です……」

 頬に口付けされ、そして、鼻先を舐められた。鼻先を触れ合わせたまま、次に進むタイミングをはかりかねて息を乱した。

「キスするぞ……」

 もう、しているのに――。

 唇が塞がれた。

 重なった唇がチュッと音を立てる。お互いの熱を確認し合うように繰り返し重ね、舌先で唇の輪郭を確かめ合ってから絡み合った。チュクチュクという濡れた音と熱い吐息が淫猥さを演出し、心が乱されていく。

 不意に、天黒の指が肌をなぞり始めた。首筋から肩、腕を撫で、脇から腰へ向かって滑った後、胸元へ這い上がってくる。

「んんんっ――」

「肌がとても柔らかい……滑らかで……ずっと触れていたいと思う」

 唇を触れ合わせたまま天黒が言う。言葉通り、天黒の手は肌から離れなかった。胸全体を撫でるように動いてから、そこに息づく小さな突起に触れた。

「ぁんっ!」

「硬くなっている」

「んん……」

「ほら、硬く尖って……俺が指の腹で触れると震える……」

 指の腹で優しく撫でられただけで強い快感が生まれ、ザァッと体の隅々まで広がっていく。

 強く捏ねられると、強い快感が湧き上がった。

「ぁっ……ぁぁっ……!」

 不意打ちのように押し潰されるのが好かった。一瞬混ざる痛みが堪らない。胸に与えられる快感で秘所が濡れるのを感じた。

「っ……、そ、こ、そんなに……されたら」

 解放された唇からは、甘い吐息が止めどなく溢れ出る。その息をさらに乱そうとするように、天黒が唇を滑らせた。

 その唇が目指す先――。

 それがどこか気付いた時、南月はその刺激を期待してフッと息を詰めた。

「っ! ぁぁっ――!」

 天黒が胸の突起に吸い付いた。音を立てて刺激してくる。強く吸われながら、唾液で濡れた舌先で舐められた。指とは比べものにならない快感に、南月は背を反らせた。自然と胸を天黒に押し付ける姿勢になってしまう。キュッとシーツを掴んだまま悶える南月の望みを叶えようと、天黒は音を伴う愛撫を続けた。

「ぁぁんんっ! んん、んっ……」

 気持ちいい。

 だが、胸だけでは発情した体は満たされなかった。体の深い場所に渦巻く欲望はどんどん膨らみ、南月の心を堕としていく。

「ぁ、ん……」

 南月の指先が揺れ、淫らな本音を伝えようと天黒に触れた。恥ずかしくて言葉にできない焦れったさを指先の動きで訴える。

「俺を……求めてくれるのか?」

 天黒が顔を上げた。その唇と胸の突起が細い唾液の糸で繋がっていた。その糸を舌で舐め取った天黒の目は青い輝きに満ち、慈愛と同じだけの欲望を宿していた。

「……」

 キュッと天黒のスーツの裾を掴んだ。視線を外しながらも、手を緩めることができない。

「南月……」

 天黒の両手がスゥッと位置を変えた。南月の体の線をなぞりながら、下へ滑って行く。その行き先を察し、南月は妖しい期待に胸を躍らせた。

「ぁっんんっ――!」

 目を閉じて全身を震わせた。身を強ばらせ、続く刺激を迎える準備に入る。

「まだ……触れてない」

 熱の籠もった声で告げられた。

 分かっているが、それでも体は歓喜に震えた。人目に晒すことのない場所を許す瞬間がそこまで来ていた。

「……待ってくれ。俺も……脱ぐ」

 敏感な場所に指が絡みつく――。

 そう思ったのに……。

 体を離す天黒を恨みがましい目で見た。南月の視線の先で、生地も仕立ても一流のスーツが無造作に脱ぎ捨てられた。

 見事な体躯が露わになった。

 筋肉が作り出す美しい曲線が惜しげも無く曝け出される。広く張り出した肩に、分厚い胸板、そして極限まで引き締まった腹はまさに男の憧れだ。そして筋肉質な尻へ続くラインの先には、誰もが羨む長い足が続いていた。

 あの体に抱かれる――。

 視覚で情欲が煽られ、南月は喉を鳴らした。

「待たせた……」

 南月の視線の先で、天黒の指が楔に絡みついた。

 やっときた。

 その痺れるような刺激に南月は喉を反らせた。

「ぁぁぁっ!」

「かわいい声だ……」

 たおやかな楔全体が天黒の手の中に収まった。根元から先端まで、ゆっくりと扱かれる。先端から溢れ出す蜜をすくい取りながら、天黒の手は硬くなる南月の楔を丁寧に擦り続けた。

「ぁっ、ぁぁぁっ、しゃ、ちょ……」

「気持ちいいか?」

「ぃぃですっ……、そこ、ぁぁ、もっと」

「あぁ。知っている。ぬるぬると濡れた先端を……こうするとイイのだろう?」

「ぁぁぁぁんっ!」

 蜜で濡れた先端を素早く擦られた。快楽の波が一気に大きくなり、下腹部から全身へ駆け抜けていく。

「ぁぁっ! そ、こっぉぉぉ!」

「凄い……蜜が溢れ出て、甘い香りが広がる」

「んっ、も、っと……もっとぉ」

 いつの間にか南月は両膝を大きく開き、腰を前後に振って天黒の手に自らの楔を擦り付けていた。大きな背中に両腕を回し、ギュッと抱き付いて淫らに腰を振る。このまま刺激を与え続けられれば、絶頂に登り詰められる。

「ぁぁぁっ!」

 弾ける!

 そう思った時だった。

「まだ、イかせない……」

 フッと快感が消えた。

「しゃ、ちょ……」

 突然の喪失感は辛すぎた。抗議するように腰がうねった。天黒が笑い、小さく頷いた。

「少し我慢だ。そうすれば、もっとよくなる」

 天黒の両手が南月の両膝を割った。グッとベッドへ押し付けられる。ヒクヒクと震える秘所が露わになった。

「もう少し我慢してくれ。……俺が入ってから、一緒にイこう」

 無骨な指が双丘の谷間を進む。そして、奥に潜む秘所を探り当てた。

「そ、……こっ……!」

「あぁ、ココに俺が入る。俺がここに入って……」

 指先がツプッと肉輪を割った。

「二人で悦楽の極みに登り詰めれば発情が治まる」

 そこは天黒の指を喜んで迎え入れた。そして、奥へ奥へと飲み込んでいく。たっぷりと濡れた中は、やっと迎えられた来訪者を歓迎してキュッと締まった。

 オメガは男も子を宿す宮を持つ。宮は花園ならぬ蜜園に包まれ、扉で守られていた。アルファの楔が扉を押し開いて愛を注げば発情が治まる。天黒はそうやって南月を助けようとしていた。

「濡れたここに……俺が入る」

 トントン、と腹を叩かれた。

「……こ、ここに……」

「あぁ。そのために、まず、指を二本……」

「んんんっ!」

「あぁ……、熱に満ちた柔らかな内壁が指に絡みついてくる。しっかりと濡れていて……、痛いくらいに強く締め付けてくる」

「んんっ! ぁっ、そ、そんな……そんなこと、言わないで、くださ、いっ」

「俺が指を抜き差ししたり、中を広げるように動かすと……濡れた音が聞こえる……」

「ぃ、ゃぁ……」

「さぁ、指を三本にしよう。力を抜いてくれ」

「ぁ、ぅっ……んんんっ!」

 ヌプン、と音を立てて指が埋没した。最初は秘所の浅い位置を引っ掻くように刺激していたが、やがて、奥を窺うように入り込んできた。指が蠢く度に快感が増す。全身を痺れさせる刺激が欲しくて、南月はクイッと腰を突き出した。

「気持ち良いんだな……」

「ぁ、んっ……い、言わないで……」

「ここを押すと、ほら……ヒクヒクしている。ここが好きだな……」

「ひゃぁぁぁっ!」

「ここを押すと中がビクビク震える。そして、指を中で踊らせると、南月は腰を前に突きだして求めてくる……ほら」

「ぁっ、ん、んんんっ! ひぁぁぁっ! は、恥ずかしいから……言わない、で!」

 耳まで真っ赤になるほど恥ずかしいのに、腰が揺れるのを止められない。どうすればいいのか分からなくて目を閉じていると、天黒が笑った。

「かわいい……南月、本当にかわいい」

 何度も「かわいい」と囁かれ、頭がおかしくなりそうだった。

 天黒の指は、南月の弱いところを的確に責めてくる。強く弱く、快楽の波を起こしてくれるのに、絶頂へ登るほどの強さではなかった。

 発情した体は悦楽の海に飛び込む準備ができていた。意地悪くコントロールされ、南月はおかしくなりそうだった。

「……もう……、もう……!」

 体の熱が最高潮を迎えていた。

 なにも考えることができない。

 アルファが欲しい――。

 南月は涙を浮かべた目で天黒を見た。鮮やかな青い光に満ちた目が見えた。

「……あぁ。俺も、限界だ……」

 腰を掴まれた。グッと引き寄せられ、ベッドの真ん中に移動させられる。

 窓から降り注ぐ陽光の下、南月は両膝を開いた。

 腰の下に大きな枕を差し込まれた。腰を高く掲げ上げ、秘所を晒す姿勢になってしまう。

「社長っ!」

「さぁ、イこう……」

 剛杭を見せ付けるようにして天黒が迫ってきた。

 腰の下の分厚い枕は、体格差を補うための道具だった。南月の視線の先で剛杭の先端が秘所に宛がわれた。

「ァンンンッ!」

 肉輪が歪み、杭を受け入れる。ゆっくりと入り込んでくるのがはっきりと見えた。

「南月……力を抜いてくれ。傷付けたくない……」

「ンァァ――ッ、ァァァッ!」

 ヌプッと音がする。

 剛杭に押し出されるように蜜が溢れ、卑猥な音を立てて流れ落ちていく。天黒が腰を進める度にチュプチュプと音がして、南月の心を掻き乱した。異常な高揚感を覚える南月は、剛杭を咥え込む自らの秘所から目を離せなかった。

「す、ごいっ! こんな……奥まで、はいってる……!」

「あぁ……ココまで入ったな」

 腹をトントンと叩かれると同時、グイッと突き上げられた。

「ハァンッ!」

 信じられないくらい甘い声が出た。

 自分でも驚き、両手で口元を隠したが、グイグイと突かれては堪らない。

「ィヤッ! ダメ! ァァッ!」

 子を宿す宮のすぐ手前、蜜園の入口である扉に天黒の先端が押し当てられる。何度も強くそこを押され、南月はイヤイヤと首を激しく左右に振った。

 蜜が奏でるチュプンという卑猥な音に煽られるように、天黒が腰の動きを大きくしていく。

「ァゥゥゥゥゥッ!」

 剛杭が引き抜かれたと思えば、ズブンと根元まで突き入れられる。体が深く繋がった状態で大きく腰を回され、奥を掻き乱されると、もう、理性の壁など無いも同然だ。

「ァァッ! ァァハァァァッ!」

 退いては寄せ、寄せては退く。快楽の波に翻弄されながら、南月は嬌声を止められなかった。猛々しい雄で深みを突き上げられる喜びに酔い痴れる。

「ィィッ! きもち、ぃぃですっ!」

「あぁ。俺も……南月の中で、幸せを感じたい……」

 淫靡な声で天黒が応じる。その声に感じた南月はギュッと剛杭を締め上げた。お陰で摩擦が強くなり、お互いの快感が深まっていく。

 部屋中に淫らな吐息が響く。繰り返される水音を聞きながら、南月はシーツを掴み、腰をうねらせて喘ぎ続けた。

 天黒の攻めが乱暴になっていく。最初の優しい突き上げが嘘のようだ。だが、欲の全てをぶつけてくるような突き上げに、南月の体は喜び悶えた。高く掲げた腰の奥へ打ち込まれる剛杭を見詰めながら、甘ったるい嬌声を上げ、もっと、と求め続けた。

「ヒァッ、ァァッ、ァァァッ――」

 視界が揺れる。このまま天黒の責めが速くなれば最高の悦楽を得られる――。

 そう南月が感じ、ピン、と足を伸ばした時だった。

「……イクぞ」

 天黒が宣告した。

 ガシリと腰を掴まれる。

「! ッ! ァゥゥゥゥッ!」

 浅瀬から深みまで、今までにない速さと強さで穿たれた。打ち込まれる杭に抵抗できず、イヤイヤと首を左右に振った。だが、天黒は攻めを止めない。

「……いい……」

 天黒の目が鮮烈な青の光を放った。

 そんな姿を見上げながら、南月は酷い攻めに喜ぶ自分の内側を知った。

 掻き乱され、翻弄されて喜ぶオメガの体――。

 深すぎる快楽に思わず腰を退こうとした瞬間、ガツッと突き上げられて南月は叫んだ。

「ダメェェェェェ――!」

 絶頂がすぐそこにあった。激しいフラッシュを浴びせられたように視界が白む。

 腹の奥から欲が吹き出し、一気に弾けた。手足の先まで強烈な快感に襲われ、神経全てが痙攣する。

 天黒が息を詰めた。

 その瞬間は同時だった。

「ッ、ゥッ、ァァァ――」

 低く呻くように天黒が長い息を吐いた。

 その後、長い静寂を挟んで零れた吐息が実に官能的だった。

 秘所の奥、オメガの宮が情欲の昂ぶりで満たされていく。

 発情で欲に焦がされたオメガの体は、アルファの愛に喜び震えた。

 コレガ、ホシカッタ――。

 涙を零して喜ぶ南月から、天黒がズルリと剛杭を抜き取った。

 欲を吐いたはずのそれは、まだ見事な強さを保っていて猛々しく天を突いていた。

「もう一度……南月を感じたい……」

 強く抱き締められた後、うつ伏せにされた。

 背後から抱き締められ、耳元で何度も名を囁かれた。

「南月……、南月……」

 支配力に満ちた囁きと強烈な快楽にオメガの体が抗えるはずもなく、南月は何度も嬌声を上げるのだった。

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