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アルファ嫌いの子連れオメガは、スパダリアルファに溺愛される
アルファ嫌いの子連れオメガは、スパダリアルファに溺愛される
川井寧子
BLオメガバース
2025年01月10日
公開日
5.9万字
完結済
●忍耐強く愛を育むスパダリアルファ×アルファが怖いオメガ●

 亡夫との間に生まれた双子を育てる稲美南月は「オメガの特性を活かした営業で顧客を満足させろ」と上司から強制され、さらに「双子は手にあまる」と保育園から追い出される事態に直面。途方に暮れ、極度の疲労と心労で倒れたところを、アルファの天黒響牙に助けられる。
 響牙によってブラック会社を退職&新居を得ただけでなく、育児の相談員がいる保育園まで準備されるという、至れり尽くせりの状況に戸惑いつつも、南月は幸せな生活をスタート!
 響牙の優しさと誠実さは、中学生の時の集団レイプ事件がトラウマでアルファを受け入れられなかった南月の心を少しずつ解していく。
 心身が安定して生活に余裕が生まれた南月は響牙に惹かれていくが、響牙の有能さが気に入らない兄の毒牙が南月を襲い、そのせいでオメガの血が淫らな本能を剥き出しに!
 穏やかな関係が、濃密な本能にまみれたものへ堕ちていき――。

プロローグ

 一面に広がる黄色い花と、真夏の陽光がまぶしい。

 陰になる物もなく、スリングから顔を出した双子たちは、眉間にしわを寄せていた。

 南月が機嫌を取るためにあやしていると、夫の護がつば広の麦わら帽子を被せてくれた。影のお陰で、表情が和らぐ。

「初めての夏はどう? 輝きに満ちているね」

 今日も護は笑顔で愛娘達に語りかける。とても柔和で、ふんわりと包み込んでくれるような笑顔が南月は大好きだった。

 優しい手付きで愛娘たちの背中を撫でた後、護はハンカチを取り出した。笑顔のまま、南月の汗を拭く。ダブルガーゼの柔らかさが伝わってくるような手付きだった。

「写真を撮ってもらったら、日陰でかき氷を食べよう」

 ね、と言うと、近くに居た女性の方へ走って行った。

 その背中を見ながら「食べさせてくれるんだよね、キンッとならないよう少しずつ」と想像し、南月はふふっと笑った。

 そんな風に笑顔を浮かべる護と南月とは対照的に、愛娘達はなかなか笑ってくれなかった。麦わら帽子を不思議そうに見詰めていて、カメラを見ることもしない。

「早紀、早保、カメラを見て」

「ほら、お花がいっぱい咲いているよ。あっちを見て」

 太陽に向かって力強く咲き誇るひまわりを指差したり、南月が体の向きを変えたりするが、なかなかうまくいかない。

 カメラを持った女性も「こっちこっち」などと気を惹こうとしてくれるが、双子の興味は変わらなかった。

 仕方がないかな、と諦めかけた時だった。

 ザァッと強い風が吹き抜けた。

 強い風を顔に受けた双子が目を丸くする。

 しばらく固まっていたが、急にケラケラと笑い始めた。

「笑った!」

 金色の絶景の中で、家族四人が笑顔を見せる写真――。

 最高の一枚が撮れたこの瞬間は、家族みんなが輝いていた。

 平凡だが、幸せな時間……。それが突然終わることを、南月はまだ知らなかった。

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