一面に広がる黄色い花と、真夏の陽光がまぶしい。
陰になる物もなく、スリングから顔を出した双子たちは、眉間にしわを寄せていた。
南月が機嫌を取るためにあやしていると、夫の護がつば広の麦わら帽子を被せてくれた。影のお陰で、表情が和らぐ。
「初めての夏はどう? 輝きに満ちているね」
今日も護は笑顔で愛娘達に語りかける。とても柔和で、ふんわりと包み込んでくれるような笑顔が南月は大好きだった。
優しい手付きで愛娘たちの背中を撫でた後、護はハンカチを取り出した。笑顔のまま、南月の汗を拭く。ダブルガーゼの柔らかさが伝わってくるような手付きだった。
「写真を撮ってもらったら、日陰でかき氷を食べよう」
ね、と言うと、近くに居た女性の方へ走って行った。
その背中を見ながら「食べさせてくれるんだよね、キンッとならないよう少しずつ」と想像し、南月はふふっと笑った。
そんな風に笑顔を浮かべる護と南月とは対照的に、愛娘達はなかなか笑ってくれなかった。麦わら帽子を不思議そうに見詰めていて、カメラを見ることもしない。
「早紀、早保、カメラを見て」
「ほら、お花がいっぱい咲いているよ。あっちを見て」
太陽に向かって力強く咲き誇るひまわりを指差したり、南月が体の向きを変えたりするが、なかなかうまくいかない。
カメラを持った女性も「こっちこっち」などと気を惹こうとしてくれるが、双子の興味は変わらなかった。
仕方がないかな、と諦めかけた時だった。
ザァッと強い風が吹き抜けた。
強い風を顔に受けた双子が目を丸くする。
しばらく固まっていたが、急にケラケラと笑い始めた。
「笑った!」
金色の絶景の中で、家族四人が笑顔を見せる写真――。
最高の一枚が撮れたこの瞬間は、家族みんなが輝いていた。
平凡だが、幸せな時間……。それが突然終わることを、南月はまだ知らなかった。