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第11話 あなたが一気に好きになってしまったわ。

王宮に用意された部屋で、1人私はベッドに寝転がりうずくまった。

フローラが白川愛だったことを思い出すと体が震えはじめる。


彼女はまた私の見えないところで、事実と異なる悪評をたて私を追い詰める気がする。

人心掌握の天才のような彼女を相手に、コミュ障のような自分が立ち向かえる気がしない。


トントン。

「はい、なんでしょう」

ドアの方からノックの音がして開けると、泣き腫らしたであろうララア様が立っていた。


「イザベラ・ライト公爵令嬢、先ほどはご挨拶もせずみっともないところを見せてしまい申し訳ございませんでした。宜しければ少しお話をしたいのですが」


寝巻き姿にガウンを羽織って現れた彼女に驚きつつも、私は彼女を部屋に招き入れた。


「私の方こそ、ご挨拶が遅れました。ララア・ルイ王女殿下にイザベラ・ライトがお目にかかります」


自分も寝巻き姿であることに気がついたが、ドレスを着ている時と同じように挨拶をしてみる。


「ふふ、私達、姉妹になるのよね。堅苦しいのはよしましょ。私のことはララアと呼んで、私もイザベラと呼ぶから」

ララア様は笑顔になると、私の手を引いてベッドに座らせて隣に座ってきた。


「姉妹になるのでしょうか?」


「サイラスお兄様はあなたを妻にするつもりで連れてきたのでしょう。イザベラもお兄様のこと好きでついてきたのよね」


「私は、サイラス王太子殿下を好きになっても良いのでしょうか?」


「人を好きになることに、許可なんていらないと思うわ。それにしても、どうやってレイラお姉様はエドワード王子と婚約したの?」


ララアはよっぽどエドワード王子が好きなようで、姉と彼が婚約したことが納得いかないように見えた。


「レイラ様がエドワード王子に、自分を利用して王位につくようにおっしゃったのですよ」

好きな人の側にいるために、堂々と自分を利用するよう言ったレイラ様のカッコ良さを思いだした。


「何それ、ずるい⋯⋯」


「レイラ様は将来エドワード様が自分以外の方を好きになった時に側室をとってもよいとまでおっしゃったのです。彼女は彼に一生、片思いをする覚悟をした上で彼にプロポーズしています。私は、それをずるいとは思いません」


私の言葉にララア様は驚いた顔をしたと思うと、笑顔で抱きついてきた。

突然のことに彼女を抱きしめ返す。


「私、なんでお兄様が人様の婚約者を奪おうとしてまでイザベラを求めているのか分かったわ。私達は王族として生まれてきているから、周りは私達に気に入られようと下心を持って接してくるのよ。心にナイフを隠しているくせに、私達の気持ちよくなるような言葉しか言ってこないの。自分に甘い言葉しか吐かない人間ほど要注意よ。自分が聞くのに辛い言葉を言ってくる人を見つけたら、友人になりたいと思っていた。イザベラは私の義理の姉になるだろうけれど、もし別の形であっていたら私はあなたを唯一の友達だと思っていたと思う」


「もしかして、私の言葉にララアは傷ついたのですか? 申し訳ございません。私、人とコミュニケーションをとるのが苦手で、知らずにララアを傷つけてしまいました」



「ふふっ、あなたは会話の達人よ。イザベラ。私、初めて同年代の子とまともに会話したわ。王女だから、お茶会を開催したりそれなりに社交はしているの。でも、友人と呼べるような令嬢はいないわ。王女である私の気を引くことに貴族令嬢たちは皆頭を使っていて、そもそも私を同年代の友人として見ていないからね。当然、私もそのような彼女たちの言葉を信用したりすることはないわ。いつも、彼女たちの発する言葉の意図を探っているの。そのような関係は友人関係でもなければ、必要だけれど苦痛な関係よ」


「会話の達人だなんて言われたのは、初めてです。私は同年代の人と話すのを怖いと感じてしまいます。何かおかしなことを言ってしまわないか心配になるのです」


「人に対して怖いと感じる心を持っているくらいが、私はちょうど良いと思う。私はいつもわざと変な事を言って、周りの反応を試しているわよ。実は、さっきも決定事項であるお姉様とエドワード王子の婚約に文句をつけるしょうもない妹の発言をしてみてイザベラを試したの。おそらく100人いれば99人は、王女である私を前にしたら私の心に寄り添った同情的な言葉をかけてくるわ。でも、イザベラは違った。だから、私はあなたが一気に好きになってしまったわ」


ララアはそう言うと、私の頬に軽くキスをして去っていった。


私は先ほどのやりとりで、自分が試されていたとは全く思わなかった。

そして、サイラス王太子殿下はララアを幼いと評したが、心が18歳の私も驚くような大人な考えを持っている彼女に驚いた。


「笑顔で近づいてくる人ほど危険だと、10歳の綾に教えてあげたいよ。どうして白川愛を友達だと認識してしまったの?彼女は、いつ私を陥れて楽しむか伺っていただけだったのに」


私が彼女と会ったのは小学校5年生で、一緒のクラスになった頃だった。

それまでも、私に対するいじめはあって私には友人と呼べる人は存在しなかった。


「友達になろう、綾って呼んでも良い?」

私は美人で、明らかに人気者の白川愛に友達になりたいと言われて舞い上がってしまった。

その後、急に周囲の態度が激変して私に対する虐めは教師やクラス全体を巻き込んだものとなった。


心が疲弊していく中でも、白川愛が虐めの首謀者で、黒幕だと気がついたのは随分先だ。

彼女は自分が私を虐めるよう誘導しながら、私がそれに気が付かず彼女に依存しているのを楽しんでいた。


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