君の心は何処にあるの?
あたしの近くに存在してるの?
ここにいるよ?この七年間、君をずっと待っていたの。
臆病者のあたしがいる。いつもは『ゆっちゃん』と呼ぶ君が初めて呼び捨てで『唯』と囁く。君の優しさに包まれながら眠る夜は、いつもいつも遠くて近い。泣きながら外を見上げると夜空が広がっている。
「綺麗……」
見上げると三日月と散りばめられた星屑が視界を制する。涙を零していたあたしの雫をそっと拭いながら、綺麗で純粋なあたしに戻してくれる。
「あの時は……もう戻らない」
目を瞑りながら、色々考え込むと凹んでしまうけど、君の笑顔で素敵な写真を見つけたあたしは懐かしく思い出に浸りながら、再び涙を零す。
まるで思い出を捨てるかのように、心の奥底の愛を鎮めるように。
あれは体育の授業の時だった。さぼり癖のあるあたしを見かねた君はこう呟く。
「ゆっちゃん。今日はおんぶリレーだってさ。俺と組まない?」
「あたしはいいよ。さぼるし」
本当は、心の中でのあたしは頷きながら、君の誘いを嬉しく思っていた。だけど君には、もうパートナーがいる。あたしは別に参加するつもりなんて、なかったんだ。
「ダメ!俺と組むの。分かった?」
強引に事を進める君は、駄々っ子そのものだった。あたしは内心微笑みながら、表面ではクールを務めてる。
「たっちゃん、相手いるでしょ?悪いよ」
そう口を開いた瞬間、言葉を遮るように、君の言葉が鼓膜を振動させる。
「断ったし、大丈夫。俺じゃなくてもいいだろ」
「……はぁ」
あのね。あの子はたっちゃんが好きなのよ。何で気付かないの?何処までお人よしで朗らかで馬鹿なんだから。頭いいのに、どうしてこういう所『鈍感』なんだろう。頭を抱えそうになる自分がいる反面、右手で顔を隠し困るそぶりをしながら、微笑んでいる自分がいた。
「俺じゃダメ?」
君はいつもそうやって女性の心をいつの間にかさらっていく。どんだけの子がたっちゃんに告白したか分かってるの?姑みたいにグチグチと言いたいけど、こんなチャンスはないし、何より一番嬉しいのは『声』をかけてくれた事。
「あたしでよければ」
「よし!じゃあ行こうか。皆もう準備終わっているみたいだし」
「……うん」
男の人は少し苦手。少し怖い。それでも、繋がれた手を振り払う事なんて出来ない。
だって『たっちゃん』だから。特別だから、離したくないの。
たっちゃんはしゃがみながら「ほら、乗って」とあたしに指示する。恥ずかしいのと不安が入り混じりながら、君の背中に乗る。
温かい鼓動の音が全身を伝って、あたしの心臓と同じ音を奏でてる。このままでいたい。少しだけ甘えさせてほしい。そんな心、君に伝える事はなかった。
「ねぇ、なんでそんな体離してるの?ちゃんとしがみ付いてくれないと危ないよ?」
「……だって」
密着しちゃうじゃない。発達している身体が触れてしまう事への羞恥感。理解してる?
「ほら」
「……わかった」
そうやってあたしの全身を君に任せながら、胸を高鳴らした記憶を覚えてる?
君にはもう『過去』かもしれないけれど、あたしにとっては幸せだった。
「幸せになって」
君に言いたいこの言葉。月に語りながら、君に伝わるといいな。