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第7話 戯れ⑴


 君が結婚した事を聞いた。胸がズキンとしたのは一瞬で不思議な事に心の中で『おめでとう』と『幸せになって』の二つの言葉が溢れてきた。君は当時スポーツマンで皆の憧れ的存在だった。私は逆に皆を笑わす担当だった。一匹狼の私の周りには人は来ない、そう思っていたが。女性も男性も『何してんの?』と興味深そうに近づいてくる。別に何もしてないのにどうしてだろうと感じていた。


 唯はいつも一人でいようとするけど、皆唯の事を心配しているし、頼りにしているんだよ。親友にその一言を言われ『そうなの?』と聞き返すと『にぶい……天然なんだから』と溜息を吐きながらも、微笑んでいた。その光景を君が見つめていた事に気付かずにいた。私とは生きる次元が違う人だと勝手にそう思い込んでいたから。


 キンコンカンコーンと始業のチャイムがなると教卓に担任の女教師が立ちながら今日は席替えをすると言うのだ。皆急に言われたからガヤガヤ、ざわついていて落ち着きがない。自分の席が誰の隣になろうが私には関係のない行事だと思いながらも、参加した記憶がある。強制的に参加だよね。拒否権ないからさ。学生ってそういうもんじゃん。さぼりたいけど、さぼれない。相当なジレンマだよ。


 そんなこんなで簡単に時間は進みながら徐々に皆の新しい席が開示されていく。ふうん。私教卓がある真ん中の列の三番目なんだ。そうボンヤリと黒板を見つめながら、肘をついていた。


 「つまらなそうだね、ゆっちゃん」


 「……え」


 「今日から隣だね、よろしくね」


 私の顔を覗き込みながら、微笑む表情が瞳に映る。そうそれは君の姿だった。ううあ、眩しい。なんて笑顔なんだろうと思いながらも、心臓はドキドキ、緊張している。その感情を隠す為に、おどけながら話すと、また微笑みが返ってきたんだ。君は成績も優秀で、学級委員をいつもしていた。皆信頼し、尊敬し、陸上でトロフィーと賞状をもらっていたね。自慢の君。私の幼い頃からの友人の『一人』の君。あくまで友人の……ね。

 仲が良すぎる関係じゃない、あくまで仲間であり、程よい距離の関係性の私達はなんだかんだ、よく話していた。君が教科書を忘れた時、急に机をくっつけてきて、一緒に見させて?いい?と子犬みたいな可愛い顔で近づいてくる。その表情、本当反則だよ。表情に恋なんて出さないようにして『いいよー。一緒に見よ』と言うと嬉しそうに『ありがとう』と囁いてくる。耳元に息が掛かりながら、サラサラの黒髪が綺麗に輝いていた。


 「たっちゃんてモテるよね」


 「そんな事ないよ。普通だって」


 「いやいや」


 「本命に好かれないと意味ないから」


 「ほほう」


 君は私の愛用のシャーペンをいつも貸してと言っていたね。書きやすいしゆっちゃんのシャーペンだから使いたいなんて。そんな事言われても、どう返答していいのか分からない。無言になりそうになるけど。私のスキルの『茶化し』が発動しながらお互い笑い合っていた。


 「あげようか?それ」


 「ほしいけど、悪いよ」


 「今日誕生日でしょ?そんなもんでいいならだけど」


 「マジ?めっちゃ嬉しいんだけど」


 嬉しがるなんて思わなかった。どこでもあるシャーペンだもん。ただの簡単なプレゼントのつもりだったけど。君の場合はそれで終わる訳がなかった。


 「はい、じゃあ俺のあげる」


 「へ」


 「交換の方がよくない?それとも嫌?」


 「ううん……嬉しいよ」


 「じゃあさ、俺の愛用の使ってよ」


 そうやって波のように寄せては返す。君との距離感それでいいと思っていたんだ。




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