「馬鹿だなぁ、また泣いて」
「…悪かったわね、どうせ馬鹿で」
「そういうトコ可愛くないのな。俺はお前のそういうトコ好きだけどね」
「…え、何言って」
「あはは、冗談だよ、冗談。本気にするなって」
「…(こんな時に冗談なんて言う?普通)もういい」
「ふくれるなよ、仕方ねぇな。よしよし」
「…子供扱いしないで」
こんな会話が愛しくて、居心地がよく思うのは俺だけだろうか。
本音を隠しながら冗談しか言えない俺は卑怯かもしれない。
それでもいいと思うのはあかりとの関係を壊したくない一心なのかもしれないな。
このアンバランスな『友人』と言う関係性を。
もう15年以上の付き合いになりながら、同じ時を過ごして、共に成長してきた。
誰よりもあかりの事を横で見ていたのは俺…藍亜 箔なのだからな。
いつも些細な事で泣いてくる彼女を見ていると、俺しか支える事は出来ないと思うんだよな。
本音を言うと『他の男に渡したくない』てのが本心なんだけど。
あかりの前では『優しくて素っ気ない幼馴染の箔』でいたいんだよ。
「箔?聞いているの?」
「…ああ」
「もう、聞いてなかったでしょ?」
「すまん」
「あんたって本当バカなんだから」
「おい。俺何もしてないじゃん」
「鈍感」
「なんだよ」
「鈍い」
「あかり」
「うう…どうしてあたしが何度も告白しているのに、気づかない訳?」
「…告白?」
「あ」
「なんの告白なんだ?」
「もう…いいってば冗談よ冗談」
俺は茶化すあかりの右腕をしっかりでも優しく掴みながら、耳元で囁く。
「もう一度言って?」
甘く囁く声は、まるで麻酔の味。
「もう…」
あかりの唇が俺の耳元に近づいてくる。
そして息と共に、言葉が音のように流れる。
それを聞いた瞬間、俺はあかりを抱きしめながら、再び囁く。
「俺もだよ」