次の日の朝、遅刻宣言をしたオレは8時には起床して家を出ていた
向かっているのは今頃たむろしているごろつきの元
別に新垣は悪いことはしていない
ちょっと正義感が強すぎて、自分でも気付かないうちに自分が関わる必要のないことにまで口を出してしまっただけ
オレが面倒くさいからと放置していたことに手をつけてしまっただけ
問題はただその相手
飯田直には兄がいる
その兄がここら辺一体では少し有名な半グレ集団の一人なのだ
そして飯田はその笠を着る言葉通り虎の威を借る狐状態
だからクラスメイトも飯田には気を遣っているし何かちょっとぐらい悪目立ちしても目を瞑る
そんな飯田のことを転校生である新垣が知るはずもなく、つい少しばかりお灸を据えてしまったという次第だ
そうなれば出てくるのは飯田の兄とそのお友達
まぁ、新垣があの見目同様喧嘩に強ければ自分でどうにか出来るかもしれないが今回に限ってはボクのために怒ってくれたわけで、それならオレがどうにかしなければいけない案件、というわけだ
だからちょっとずるして知り合いから情報をもらってこうしてわざわざオレのほうから向かっているというわけだ
「よし、つーいた」
情報通り、路地裏にたむろするチンピラ集団の前で走っていた脚を止める
オレの声に一気に視線を集める
「あ゛あ゛? お前誰だ?」
そのなかでも短気そうな男がメンチを切りながらオレのほうへ詰め寄ってくる
「誰だっていいだろ?」
オレはそいつをスルーしてチンピラ連中の中心までどんどん進んでいく
真ん中に立ってる背ばっかり高いノッポな男が確かそう、飯田の兄だ
「んだこいつ! こっちは今腹立ってんだよ、あんまり舐めた口聞いてっとただじゃ済ませねぇぞ!」
今度は飯田兄の隣に立っていたデブがぐっと顔を近付けてくる
「オレは、あくまで話し合いに来たんだぜ? 話し合いで解決したほうがお互いの為だって言ってんだ、それから唾、汚ねぇからあんまり叫ぶなよ」
「んだとぉ……!!」
別に挑発でもない事実を述べればデブは顔を真っ赤にして怒り出す
そしてオレに殴りかかろうとするところを、飯田兄が手で制す
「止めろダンプ、お前……あの舐め腐ったガキの仲間か? それにしてはずいぶんなよっちいなぁおい! 越してきたばっかりかなんだか知らねえがあいつは前から目立ってたからな、弟の件がなくてもいずれ締める予定だったんだよ、分かったらとっとと帰んなおちびちゃん」
そしてデブの代わりにわざわざ自分から説明してしっしと手を振って見せる
「んー、なぁ、本当に弟が大切なら自分の威を貸すようなことすんの辞めたほうがいーんじゃねーの?」
そんなことをしていればいずれ後悔するのは自分のほうだ
それをオレはよく知ってる
だから忠告してやっているのに飯田兄……ノッポは聞く耳も持たない
やはり、自分で経験しないとそういうのはきっと一生分からないままなのだ
「飯田! こんなクソガキに何言ったって無駄だろ、とっとと一度絞め、て……ぐっ……」
顔を真っ赤にしたデブがついに殴りかかってくるものだからオレはその拳が自分に届く前に一撃腹に叩き込んで地面に沈める
「ダンク!」
地面に倒れたデブにノッポが叫ぶ
「絞めて、何? 折角こっちがわざわざ、赴いて、穏便に済ませてあげようとしてんのに」
オレは殴った感覚を振り払うように手をぱっぱと払う
「て、てめぇ! っぐ……」
次にオレに向かってバットを振り上げた男の脚を脚払いして倒れたところからバットを奪う
そして
「バット振り上げといて、殺したいのなら狙うのは頭だぞ?」
そのまま振り上げて倒れた男の頭
「ひっ……!!」
の真横にバットを振り下ろす
ガンっという音と共に金属バットは大きくへこみ、男は泡を吹いて気絶する
「あ、へこんじゃった、ま、いいか」
オレは誰に言うでもなく呟きながら必要なくなったバットを適当に放り捨てる
「な、なんだよこいつ! がはっ……!」
バットの男とは別にオレにむかって拳を振り上げていた男にも一撃腹に蹴りを決める
「喧嘩中に相手から目を離すなよ、こうなるぞ?」
バットがやられた時にバットのほうへ顔を向けて振り上げた拳を止めるからこういうことになるのだ
「く、くそ!」
それを見てまた別の男が臨戦態勢を取ろうとする
「待て!」
だがそれを大きな声でノッポが制する
「どうしたんだよ飯田! 早く反撃を……!」
「攻撃したやつからあいつは片手間に適当にいなして転がしてるだけだ、あいつには、勝てない」
流石にこの半グレ集団の頭をやっているだけあって他のバカよりはよく状況を見ている、という感じはする
「何でっ……!」
「……いいから、こちらから喧嘩売らなきゃ話が出来るってことだ、お前、その真っ赤なパーカーとフード、烈勢刃竜気李のチームメンバーか……?」
「なっ……!?」
烈勢刃竜気李の名前が出た途端に周りのチンピラ達が一斉に黙り込む
折角分かりやすくこんなパーカーをきてきてやったのに今の今まで気付かれないとは全く自分の小柄さが嫌になる
「ご名答ー、というかそもそも話をつけに来たってオレ最初に言ったけど、それで、やっぱり続ける?」
オレはパチパチと拍手しながら全員をしっかり見渡して、それから指で誘って見せる
「……烈勢刃竜気李を敵に回すほどバカじゃねぇよ、それで、どうしたら引いてくれるんだ?」
だがノッポはそこまでバカではなかったようですぐに話が済みそうで安心する
変に長引けばそれこそ本当に約束の時間に遅刻してしまう
「それは簡単、新垣タイガに手を出すな、それだけだ」
オレはただ、単刀直入に用件を伝える
「なんで、そこまで肩入れするんだよ……ただの都会から来たなんも知らないガキだろ? まさか烈勢刃竜気李に入れる気、なのか……?」
ノッポの言葉につい吹き出しかける
元々入れる気もないしあいつがいくら頼み込んだところで絶対に入れてやるもんか
「いや、入れる気もないし入れてやる気もない、これはただの私情、ということでよろしく、それを破ったら、次は総力戦になるかもな」
笑う代わりにそれ伝えてからしっかりと釘を刺して、帰る為に走る準備に靴ひもをしっかり結び直す
「……あんたは、一体……」
「ただの烈勢刃竜気李の構成員、それだけ、じゃあオレ用事あるからこれでー」
そんなオレを恐怖とも何とも分からない顔で見やるノッポにそれだけ言ってひらひらと手を振ると今度こそオレは走り出した
「……あれでただの構成員なわけねーだろ……」
後ろからはそんな嘆くような声が聞こえた気がしたがまぁ、気にするまでもないことだ