朝、起きたらまずボクはトイレに行って、手を洗ってから朝飯を漁る
適当なスナックパンなんかを見つけたら皿に盛るでもなく口に放り込んでパックのままの牛乳でそれを流し込む
それから歯を磨いて、学校の制服に着替えてから元来外跳ねの酷い髪の毛を無理やり整えて真っ直ぐにする
それからいつも雑多に置いてあるいかにもインテリな黒ぶちメガネをかければはい、地味ーでくそ真面目そうな新道あらたの完成である
死んだ表情筋を何度か自身の手でぐにぐにと動かして、それから鞄をしっかり持って家を出る
「……」
学校に着くと誰に挨拶するでもなくボクは自分の席に着くと別に読んでいるわけでもない家から持ってきた文庫本を開く
「昨日のテレビ見たー?」
「見た見た! すごかったよねあのニュース」
「俺帰りゲーセン行くけど行く人ー」
「あ! オレ行く!」
「オレもオレも!」
本を開いてはいるものの読んでいるわけではないボクの耳にはよく会話内容が聞こえてくる
昨日のテレビの話、放課後の話
テレビを見ないボクには何の関係もないし放課後誘われることのないボクには何の関係もない話だ
まぁ、別に誘われたいと思ったこともないが
「授業始まるぞー、席につけー」
そんな雑踏も教室に入ってきた教師の一言で静まり返ってそれぞれが席に戻る
「起立、礼、着席」
号令に合わせて教室内にいる約25人が揃って同じ動きをする
小学校からずっと刷り込まれて統率が取れたそれは他国の人間からしたら少し気持ち悪いんじゃないかとすら思う
それからホームルームが始まって、終わって、今度は授業が始まって、また、終わる
「あー、疲れた、なぁ購買行かねー?」
「行くかー、今日は焼きそばパン売りきれてないといいなー」
「ねぇ、私達もお弁当食べよー」
「あ、うち今日お弁当なくて学食行くんだ」
「マジ? じゃあ学食でお弁当食べよー」
そんなことを四時限も続ければ昼休みが始まって、皆早々にいつものメンツに声を掛け合いながら揃って教室を出ていったり、机同士を合わせて弁当箱を開いたりする
「なぁ、そこ邪魔なんだけど」
「……」
ボクが自分の席に座っていれば弁当箱を持ったクラスメイトに声をかけられる
「なんか文句ある?」
「いや、ないよ、ほらどうぞ」
黙って見返していればそんなことを言われるから、ボクはそれだけ言って席から立ち上がる
「どうも」
そしてボクが退いたらすぐに勝手にボクの席を動かして、前の席の女子と机をくっつけて座ると楽しそうに話ながら弁当箱を開く
そこはボクの席なのに、とか、使うなら使うで何か一言あるだろ、とか、そういうのだってはっきり言ったらどうだっていい
ボクはそのまま教室を出るとポケットに入っている小銭を確認する
およそ300と少し
「これならパンぐらい買えるか」
ボクは呟きながら購買に向かうために道を変える
大体は毎日購買でパンと牛乳を買うのだがいかんせん月末は貧乏学生らしく金欠に憂いでいる
だからなければ月末は何も昼食を食べない時も希にある
いつだって混んでいる購買でタマゴサラダサンドと牛乳を買うといつも通り屋上で柵にもたれ掛かりながら昼食を食べる
食にそこまで興味のないボクは基本的にこのセットであることが多い
そんなに大きくもないそのパンを三口くらいで飲み込むと、また牛乳で流し込む
それからは何をするでもなく天を仰いで、休み時間が終わるのをただ待つ
それから予鈴のチャイムを合図にボクは教室に戻る
その頃にはボクの机も戻ってきているから
「起立、気をつけ、礼」
それから後半の授業日程を終わらせると朝のように皆揃ってご挨拶
それが終われば晴れて自由の身となった学生達は街へと乗り出していく
ボクは鞄を持つと誰とも会話をすることもなく教室を出て、普通の日ならそのまま家に直帰する
それから適当に宿題をこなして、適当に夕飯を済まして、見もしないテレビをつけてだらだらと内容も入ってこない漫画を眺めたりなんかしたりして、適当な時間になったら寝る
改めて言おう
ボクの名前は新道あらた
一ノ宮高校二年三組17歳
漫画的に言えばどこにでもいるふつーの天涯孤独の高校生
ただ学校に通って、家に帰ってきて眠る
週に二回ほどある面倒事を除けばそれがボクの日常だ
いや、日常だった、になるかもしれない
それもこれも、全て彼が現れる前までの話だからだ