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第3話

   3


 他愛のない会話を交わしながら学校の敷地に差しかかると、朝のチャイムが鳴り響いていた。


 ヤバい、完全に遅刻。

 楸先輩に流されるように話をしてしまったせいだ。


 まぁ、こうなってしまったものは仕方がない、大人しく怒られよう。


 それにしても、楸先輩はいつもどこにホウキを置いているんだろう。


 わたしは屋上の片隅に立てかけているのだけれど、少なくとも、楸先輩のホウキが置いてあるのは見たことがない。


 他に良い隠し場所でもあるんだろうか?


「先輩、いつもどこにホウキを――」


 思いながら楸先輩のいた方に顔を向ければ、そこに彼女の姿は見当たらなかった。


 あれ? おかしい。ついさっきまでわたしのちょっと後ろを飛んでいたのに。


 ひとしきり周りを見回してみたのだけれど、やっぱりどこにも楸先輩はいなくて、

「……ひどい」

 どうやら私のことなんて放っておいて、先にどこかで降りてしまったらしい。


 一声かけてくれたっていいじゃない! まったく、なんなのあの先輩は!


 頬を膨らませながら心の中で悪態を吐きつつ、わたしは屋上に降り立った。


 基本的に何もない学校の屋上。

 その片隅にホウキを立てかけ、わたしは出入り口の扉へ向かう。


 人差し指を鍵穴に向けて小さくカチャリ。


 なるべく音を立てないように扉を開けて中に入り、もう一度鍵穴に指先を向けてカチャリ。


 この程度の単純な鍵であれば、わたしの魔法で簡単に開閉可能だ。


 たぶん、その気になれば泥棒だってできちゃうのだけれど、もちろんわたしはそんな悪いことなんて絶対にしない。


 もうホームルームが始まっている時間だし、急いで教室に向かわないと!


 わたしは駆け足で階段を降り、二階のわたしの教室へ急いだ。


 人影のない、しんとした廊下。


 けれど各教室からは先生や生徒たちの声がわずかに漏れて聞こえて、そこには普段私の知らない景色が広がっているように見えた。


 本当なら、わたしは今、彼らと同じように教室に居るはずの時間なのだ。


 小学校から中学校までの九年間、わたしは無遅刻無欠席だった。


 それに対して何となく誇りに思っていたのだけれど、ここへきてその記録は止まってしまった。


 まぁ、意図して頑張っていたわけではないし、そこまで私は気にはしない。


 ……。

 ………。

 …………。


 前言撤回、やっぱり悔しい。


 あの時、楸先輩にさえ出会わなければ絶対に間に合ったのだ。


 そう、だからこれは、楸先輩のせい。


 彼女のせいで、わたしの無遅刻無欠席の記録は破られてしまったのだ。


 たぶん、楸先輩もわたしと同じように遅刻しているはず。


 にやにや笑いながら危険飛行したり、眼下の町を見ながら支配者になったみたいで気分がいいと言ったり、いつの間にか居なくなってたり、なんかちょっと変な先輩。


 あの様子だと、きっと遅刻なんてしょっちゅうしているんだろうし、そのことを気にも留めていなさそうだ。


 ……うん。もう関わらないようにしよう。


 あの人に関わってしまったら、もっとメンドクサイことになりそうな気がしてならない。


 今後話しかけられても適当に返事してさっさと逃げて、姿を見かけても話しかけない。


 よし、そうしよう!


 わたしは一つ頷いて、自分の教室のドアを開けた。

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