「あの……」
控えめに手を挙げたジャージの若い男にりんちゃんは、
「あ゛ア゛ン゛!!? テメェ俺の年収に文句あんのか!? 俺はまだまだこっからなんだよつーか二十九で年収四百五十万は、平均よりちょっとお高めだぞゴ゛ル゛ア゛!!!」
「違う違う落ち着いて……タチかネコかを」
りんちゃんの怒りはすっと引っ込んで、
「……タチ」
とだけ答えて、そのまま置物みたいに黙りこくった。
「じゃあ、次は俺ね。
「チッ」
派手な男改め『屑山』の自己紹介に、おもむろに舌打ちをするりんちゃん。しかし、負の感情を抱いたのは彼だけではなかった。
「おいおい。その顔で歌舞伎町ナンバーワンって嘘だろ」
嘲笑するように、長髪で髭の男が口の端を吊り上げる。
「フッ」
お前の意見に賛成だ、とでも言うかのように神経質そうなリーマン『猫多』(股間にシミあり)も冷笑した。
「ほんとうだってば。それを言えば、君の大企業勤めで年収一千万ってのも、嘘かもしれないじゃん?」
猫多の眉がピクリと痙攣する。
「職業や年収は今どうだっていいでしょう。確かめようがないんっすから。こんなところで喧嘩している時間がもったいないっすよ。俺ら全員の命がかかってるんすから」
ジャージを着た若い男の説得で、自称歌舞伎町ナンバーワンホストと自称大企業勤め年収一千万による口喧嘩は収まった。
しかし、そこに油を注ぐ男が一人。
「俺ァ馬鹿だから難しいことはよく分かんねぇけどよォ、テメェが嘘言ってるってことだけは分かるぜェ、エセホストさんよォ。そんな顔でナンバーワンホストなれるわきゃねーだろ、俺の方がイケメンだぜァ゛~~!」
り……りんちゃん……! どうして君は、いつもそう高圧的で傲慢で喧嘩っ早いんだよ!?
唖然とする六人、静かにこめかみをピキらせる屑山。僕は一人、頭を抱えていた。そんなに目立つような形でヘイトを稼いだら、生贄投票の恰好の的じゃないか……!