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一日目:昼③

「あの……」

 控えめに手を挙げたジャージの若い男にりんちゃんは、


「あ゛ア゛ン゛!!? テメェ俺の年収に文句あんのか!? 俺はまだまだこっからなんだよつーか二十九で年収四百五十万は、平均よりちょっとお高めだぞゴ゛ル゛ア゛!!!」

「違う違う落ち着いて……タチかネコかを」


 りんちゃんの怒りはすっと引っ込んで、

「……タチ」


 とだけ答えて、そのまま置物みたいに黙りこくった。







「じゃあ、次は俺ね。屑山 実くずやま みのる。実は本名じゃないよ、源氏名。でも、別に問題はないよね? 職業は、ホスト。こう見えて歌舞伎町のとあるホストクラブでナンバーワンプレイヤーなんだよね~。去年の年収は一億。仕事では女の子しか相手しないけど、実はゲイでタチ。よろしくね」


「チッ」

 派手な男改め『屑山』の自己紹介に、おもむろに舌打ちをするりんちゃん。しかし、負の感情を抱いたのは彼だけではなかった。



「おいおい。その顔で歌舞伎町ナンバーワンって嘘だろ」

 嘲笑するように、長髪で髭の男が口の端を吊り上げる。


「フッ」

 お前の意見に賛成だ、とでも言うかのように神経質そうなリーマン『猫多』(股間にシミあり)も冷笑した。


「ほんとうだってば。それを言えば、君の大企業勤めで年収一千万ってのも、嘘かもしれないじゃん?」


 猫多の眉がピクリと痙攣する。






「職業や年収は今どうだっていいでしょう。確かめようがないんっすから。こんなところで喧嘩している時間がもったいないっすよ。俺ら全員の命がかかってるんすから」


 ジャージを着た若い男の説得で、自称歌舞伎町ナンバーワンホストと自称大企業勤め年収一千万による口喧嘩は収まった。



 しかし、そこに油を注ぐ男が一人。


「俺ァ馬鹿だから難しいことはよく分かんねぇけどよォ、テメェが嘘言ってるってことだけは分かるぜェ、エセホストさんよォ。そんな顔でナンバーワンホストなれるわきゃねーだろ、俺の方がイケメンだぜァ゛~~!」


 り……りんちゃん……! どうして君は、いつもそう高圧的で傲慢で喧嘩っ早いんだよ!?



 唖然とする六人、静かにこめかみをピキらせる屑山。僕は一人、頭を抱えていた。そんなに目立つような形でヘイトを稼いだら、生贄投票の恰好の的じゃないか……!

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