その言葉に僕ら十人全員が、黙り固唾を飲んでブラウン管テレビを凝視した。
『まず、バリタチ側の勝利条件。生存者が二人になるまで生き残ること。バリタチが勝利した場合、バリタチ以外全員は処刑……死にます。つぎに、タチ側の勝利条件は、バリタチを見つけ出し処刑すること。そして、バリネコの勝利条件は、ゲームが終了するまで生き残っていること。ゲーム終了時にバリネコが生き残っていた場合、バリタチ、タチの勝利に関わらず、バリネコ以外全員が死にます』
「あ、分かった。バリネコって、人狼ゲームで言う『キツネ』っしょ」
派手な男がぽんと手を叩いた。しらじらしい男だ。狩人の説明を聞いたとき、すでに気づいていただろうに。
『勝った方には、賞金百億円が与えられます』
一瞬で、僕らの目の色が変わった。だって、百億なんて見たことがない、自分が手に入れるところを想像すらしたことすらない大金だから。その大金が今、ブラウン管テレビの画面越しに僕らの目の前にある。
ある……ある、あるんだけど……。
「おいちょっと待て! それよく見たら日本円じゃねーじゃねーか!!」
ふくよかな丸刈りの男のするどいツッコミ。この男、ただキレるだけじゃなくツッコミもできるらしい。
「なんだ、偽札っすか?」
ジャージの若い男の発言をきっかけに、波紋のように僕たちの間に不満が広がっていく。
「ふざけやがって。今すぐ俺たちを家に帰らせろ!」
「そうだそうだメロンソーダ!」
「やーいデブ!」
「お前どうせニートだろ!」
『リンギットだよ』
「あ゛?」
『リンギット……』
みんなのブーイング(一部悪口)と、元ヤンりんちゃんのガン飛ばしのせいで、うさ耳ピエロマスクの声は消え入りそうに小さくなってしまっている。かわいそうに……。
「リンギット、マレーシアのお金ですネ」
みんな一斉に、中華服を着て横髪を三つ編みにした男の方を見た。
「ピエロさん、アンタ、マレーシアに住んでるあるカ?」
『そうだよ』
なるほど。僕らが一瞬偽札だと思った札束タワーは、マレーシアの本物のお金だったわけだ。だけど、
「日本にいたら、そのお金使えなくない?」
みんなが思っている疑問を、派手な男が代弁した。それに対し、画面の中のうさ耳ピエロマスクは
『大丈夫。ちゃんと日本円にして送るから。レターパックでね』
会場内に、一抹の不安がよぎる。
『あーわかった。日本円じゃなくてもいい。ドルでもユーロでも。別に法定通貨じゃなくったってもいいよ。ゴールドでもビットコインでも株でも。現時点で、日本円百億円と同等の価値のあるものを勝者にあげる。これは、絶対だ』
チカリと、彼または彼女の首に鋭いものが光った。金属でできているであろう、仰々しい首輪だ。
『この首輪はハイテクでね、契約に反したら爆発して死ぬ。外すためには、契約を実行しなければ一生はずれない。そして、僕がした契約はこれだ』
うさ耳ピエロマスクは一枚の紙きれを、クリームパンみたいな手に持って僕らに見せた。
バリタチ人狼ゲームを実行すること。そして、勝者には二千二十四年十一月七日時点で日本円換算して百億円相当を渡さなければならない。そう、書かれていた。
『さ、これで分かっただろ。命を懸けているのは、君たちだけじゃない。そして、勝ったときの報酬は『必ず』支払われるって』
うさ耳ピエロマスクは、僕らを一瞥しこう言った。
『さぁ、楽しいデスゲームの始まりだ』