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ゲームのルール⑤

「りんちゃん……!」


 僕の幼馴染かつ元カレの鈴太郎ことりんちゃんは、ポケットに両手を突っ込んだままヤンキー上がりのドスの利いた声で、目の前の男を睨みつけた。



「まず、テメェがバリタチじゃねぇってのを証明しろや」


 ごもっともである。中華服を着て横髪を三つ編みにした男は、眉一つ動かさずに


「そんなの、証明簡単あるネ。スマホ見せ」

『だめです』



 ブラウン管テレビの中の、うさ耳ピエロマスクが食い気味に言った。


『それやったら、ゲームが終わってしまうので』


 ごもっともである。






『じゃあ、気を取り直してルール説明のつづきをはじめるね』


 あ、まだだったんだ。と十人中八人くらいが思っただろう。うさ耳ピエロマスクは、どこまで話したっけとぶつぶつ言いながら、大学ノートを取り出した。


 ぺらぺらとページをめくって



『ああ、そうそう。役を発表したら、役割を話さないとね。まずはバリタチ。彼にはすでに、超強力な媚薬を盛ってあります。バリタチは、夜になると毎日必ず一人、襲ってもらいます。というか、襲うよ。今この状況でも平静を装うのが難しいくらいめっちゃムラムラしてるから』



 彼または彼女は『必ず一人』のところで、人差し指を立てた。細めのちんちんくらい太い指だった。


 僕が『いや、デブとか思ってないし失礼だろ僕の馬鹿!』とか考えていると、彼または彼女は僕の内心に気づいていないようで、説明をつづける。



『バリタチは、生き恥の椅子がある小部屋、もしくは各個室を一つ選んで襲撃します。しなかったら即処刑します』



「生き恥チェアに座らされたからといって、必ず襲われるわけじゃないのか」

 学ランを着て眼鏡をかけた真面目そうな男の子が、ほっとしたようにぽつりと漏らした。


「襲われなくても、あの椅子に座らされるだけで尊厳破壊だけどねー」

 それはそう。派手な男の言葉に対して九人全員が思った。






『この、鍵の束を使ってね』

 うさ耳ピエロマスクはそう言って、じゃらりと、鉄でできた鍵の束をおもむろに目の前に見せてきた。




『バリタチは、この建物の中にあるすべての部屋の鍵を、この鍵の束を使って外から開けることができます。閉めることはできません』


「変な鍵」

 僕はぽつりとつぶやいた。うさ耳ピエロマスクは真剣な顔をして、太い人差し指を立てた。



『ここで、注意点があります。オートロックは開けられません』




 オートロック……? と頭の中が『?』になっている僕らを見てニヤリと笑った彼または彼女は



『そう。このバリタチ人狼ゲームにも、『狩人』は存在します。狩人は、タチの中に一人だけいます。あとで自分の部屋に行ったら、ベッドの横のサイドテーブルの引き出しを開けてね。その中に狩人用のタブレット端末が入ってたらその人が狩人です。それを使うと、毎日君たちの個室の十部屋の中から一部屋を選んでオートロックをかけることができます。扉を閉め、内鍵をかけたら翌朝六時になるまで外からはぜ~~~ったいに開きません』




「なるほど。ということは、狩人は自分の部屋にもオートロックをかけられるということか」

『そうだよ、眼鏡くん』


 うさ耳ピエロマスクの軽口に、学ランを着て眼鏡をかけた真面目そうな男の子は露骨に嫌そうな顔をした。





『狩人が、今回のゲームのキーパーソンだよ。バリタチは早く狩人を特定してブチ犯してぶっ殺したいし、タチは早く狩人を特定して自分を守ってもらいたいよね! ちなみに、さっき眼鏡くんが言った通り、自分の部屋にオートロックをかけることもできま~す。ただし、バリネコの部屋にオートロックをかけたら、バリネコは死にます』



「……!」

「なるほどね」


 ここで勘のいい人、もしくはオリジナルの人狼ゲームをやったことのある人は気づいたようだ。バリネコ=キツネだと。ジャージを着た若い男、派手な男の二人は手ごわそうだと思った。要注意だ。









『では、つづいてバリネコの紹介をするね』

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