『
「ん……?」
「ちょっと待てよ」
ざわつく会場。だって、言い間違えじゃなかったら数が合わないから。
「ねーねーピエロさん、うちら十人だにょ? 八人とぉ~一人だったらぁ、一人足んなくね?」
ツインテールの若い女の子――いや、たぶん主催者の意図からしておそらく男の娘だ――が口を開いた。
『はい。
バリネコ……? ゲイ界隈では聞きなれない言葉に、会場がどよめいた。ネコなら分かるが。
「バリネコって何なんだよ?」
ロン毛で髭の男の質問に対してうさ耳ピエロマスクは
『それはあとで説明します』
一蹴した。
『では、みなさん自分の役をお手持ちのスマホで確認してください』
「は? スマホ……?」
みんな一様にざわめきだした。いつのまにか、僕ら十人全員の尻ポケットにスマホが入れられていた。
そこには、スマホの縦長の画面すべてを使ってデカデカと、役が表示されていた。
『ちなみに、スマホに表示されている役と実際の性的志向はピッタリ一致してるからね!』
何で知ってるんだよ……。
「ワサシ、タチだたよ。アンタは?」
「えっ!?」
突然話しかけられ、驚きでスマホを落としそうになる。空中でキャッチし、スマホカバーを閉じて画面が見えないようにしてから、再び尻ポケットへとスマホを戻した。
「僕も、タチでした」
そう答えると、中華服を着て横髪を三つ編みにした男は、僕の隣の男にも同じ質問をした。
「俺も、タチっす」
ジャージを着た若い男も、僕と同じ回答をした。
まぁ、当たり前だ。だって、スマホに表示された役職名が何であれ、今この状況で大多数の敵である『バリタチ』や得体のしれない『バリネコ』と答える人などいないだろう。
「ワサシ、スーツのニイチャン、ジャージの人、全員タチだたね。のこり七人は五人がタチで、一人がバリタチね。ミンナ名乗らないと、バリタチとみなして三人でお前に生贄投票するネ! あの生き恥椅子に座らせるヨ!」
中華服で横髪を三つ編みにした男の発言に、全員が動揺する。というか、その三人の中に僕も入っているのだろうか……?
「俺、タチです」
「俺もだ」
「俺も」
こういう場面で敵を作ってはまずいと、つぎつぎと三人の男たちが『タチ告白』をした。学ランを着て眼鏡をかけた真面目そうな男の子に、ロン毛で髭の男、派手な男。
その様子を見て、中華服を着て横髪を三つ編みにした男は、満足げにニヤリと笑うと
「ジャア、今タチって言わなかった四人がバリタチ候補だナ。みんな、こいつらに生贄投票いれるネ!」
「ちょっと待てや」