『じゃあ、気を取り直して一日の流れを説明するね』
うさ耳ピエロマスクは、こほんと一つ咳払いをした。
『まず、毎日必ず夜六時までに生贄投票をしてもらいます。そこで選ばれた生贄くんは、次の日の朝六時まで、さっき見せたM字開脚生き恥の椅子に座ってもらいます』
あっ、そんな名前なんだあの椅子。
『残りの人は、夜十時になるまで自由時間。ご飯を食べても、みんなと親睦を深めても、一人で過ごしてもOK。ま、自由にしてちょ』
みんなの間に少し、安堵が広がった。今、うさ耳ピエロマスクは『ご飯を食べても~』と言った。と言うことは、つまり食事は出るということだ。飢え死にに怯える心配はなくなった。
『でも、夜十時になったら全員個室に戻ってもらいます』
「戻らなかったらどうするんだぁ~~?」
先ほどブラウン管のテレビが乗ったボロボロの机に豪快に蹴りをかました、ふくよかな丸刈りの男がヤジを飛ばした。彼の精神は回復したらしい。
『殺します』
冷ややかな即答に、全員が息を飲む。
『個室に入ったら、バリタチ以外は鍵をかけて翌朝六時まで絶対にそこから出ないようにしてください。バリタチは、夜十時から朝六時の間に、部屋を一つ選び、襲撃します』
「……ん?」
何かに気づいて、学ランを着て眼鏡をかけた真面目そうな男の子が小さく息を漏らす。
そう、僕も気づいたけれど。
「部屋に鍵がかかってちゃ、襲えないじゃないっすか」
若いジャージの男がみんなの疑問を代弁してくれた。
『おーよく気づきました! 人狼側――バリタチは、鍵の束を持っています。バリタチの個室のサイドテーブルの引き出しに入っているので、くれぐれもなくさないように……ね?』
「なるほど。バリタチ以外は夜十時以降は他人の部屋を開けられないってことか」
スーツを着た神経質そうなサラリーマン風の男がつぶやく。
『一日の流れは大まかに、夜六時までに生贄投票を済まして、生贄は拘束、それ以外は夜十時になったら部屋に鍵をかけて朝六時まで就寝の繰り返しになります。あ、そうそう。言い忘れていたけど、バリタチがあの生き恥椅子に拘束されて朝六時を迎えた場合、死にます』
ざわり……会場がどよめいた。これが、
『じゃ、大まかなルールを説明したところで、次は配役の発表といたしましょう』
オリジナルの人狼ゲームでも、どんな役があるかによって勝手が違ってくる。例えば、占い師・霊媒師がいるのかいないのか、狂人がいるのかいないのか、キツネがいるのかいないのかでも攻略方法はガラリと変わる。
ましてや、この『バリタチ人狼ゲーム』。いったいどんな変わった役があるのか……。
僕らは固唾を飲んで、モニターをじっと凝視した。